社宅ラプソディ
玄関前で手を振る美浜に見送られて、明日香の運転で帰路についた。
車の中の話題も、やはり小泉京子のことである。
「グッチのバッグに全財産入れて、グッチさん、徹底してますね。すごすぎる」
「浮気の代償は大きかったってことでしょう。だけど、美浜さんの口の堅さもすごいと思わない」
「思います。私たち、聞いちゃいましたね。責任重大ですね……
浮気と不倫の違いってなんだろう。よくわからないまま使ってるけど」
交際相手以外の人に気持ちが移ったり深い関係になったら浮気、配偶者以外の相手とそうなったら不倫と、五月は端的に説明した。
「おぉ、五月さんの説明、わかりやすい」
「浮気という言葉は、気持ちが浮ついてうつりやすい、という意味だから、男女以外の関係にも用いられるわね。ほかの店に浮気したとか。
不倫は人の道に背くという意味だから、罪深い感じがするわね」
「小泉課長のは不倫ですね……」
「そうね……ねぇ、グッチさんの秘密のはなし、ここで終わりにしない?」
「そうですね、終わりにしましょう。社宅でうっかり話して、誰かに聞かれたら大変です」
それからのふたりの話題は、五月を悩ませる夫の両親についてだった。
まだ性別はわからないと言うのに、女の子の服を送ってくる、女の子のおもちゃを送ってくる、名前の候補を決めるなど、坂東の両親の暴走はとどまるところを知らない。
「男の子だったらどうするんですかって聞いたら、従弟たちのおさがりがたくさんあるじゃないって、お義母さんはそういうのよ。かわいそうだと思わない?」
「男の子だったら全部おさがりって、かわいそうです。レンさんはなんて言ってるんですか」
「放っておけって、人ごとみたいにいうの。自分の親なのに、無責任でしょうって言い返して、それでケンカになるの」
「五月さん、ケンカするんですね」
「するわよ。明日香さんは、グリさんとケンカしないの?」
ケンカはしたことがないと言うと、五月は 「そんな夫婦、いるんだ」 と大げさでなく驚いた様子だった。
「そうね、ケンカしない方がいいわよね。胎教にもよくないわね……」
「そうですよ。赤ちゃん、声が聞こえるそうですよ」
楽しい話をしましょうかと言ったものの、明日香はすぐに思いつかない。
「赤ちゃんの名前、決まりそうですか」
「まだ……グリさんの名前も素敵ね。ほかのご兄弟のお名前は?」
「お姉さんがありす、弟が雅久都、なかなかの名前だと思います」
「なかなかの名前ね。宝塚が大好きなお母様が考えたの?」
「そうかも。今度聞いてみよう。わぁ、夕焼けがきれいですね……」
梅ケ谷社宅の三棟が近づいてくる。
古い社宅も、こうしてみると味わいがあるものだ。
いつのまにか愛すべき社宅になっている。
社宅棟の背面に秋の夕日が反射して、美しい色を見せていた。
『社宅ラプソディ』 1st season (終)
車の中の話題も、やはり小泉京子のことである。
「グッチのバッグに全財産入れて、グッチさん、徹底してますね。すごすぎる」
「浮気の代償は大きかったってことでしょう。だけど、美浜さんの口の堅さもすごいと思わない」
「思います。私たち、聞いちゃいましたね。責任重大ですね……
浮気と不倫の違いってなんだろう。よくわからないまま使ってるけど」
交際相手以外の人に気持ちが移ったり深い関係になったら浮気、配偶者以外の相手とそうなったら不倫と、五月は端的に説明した。
「おぉ、五月さんの説明、わかりやすい」
「浮気という言葉は、気持ちが浮ついてうつりやすい、という意味だから、男女以外の関係にも用いられるわね。ほかの店に浮気したとか。
不倫は人の道に背くという意味だから、罪深い感じがするわね」
「小泉課長のは不倫ですね……」
「そうね……ねぇ、グッチさんの秘密のはなし、ここで終わりにしない?」
「そうですね、終わりにしましょう。社宅でうっかり話して、誰かに聞かれたら大変です」
それからのふたりの話題は、五月を悩ませる夫の両親についてだった。
まだ性別はわからないと言うのに、女の子の服を送ってくる、女の子のおもちゃを送ってくる、名前の候補を決めるなど、坂東の両親の暴走はとどまるところを知らない。
「男の子だったらどうするんですかって聞いたら、従弟たちのおさがりがたくさんあるじゃないって、お義母さんはそういうのよ。かわいそうだと思わない?」
「男の子だったら全部おさがりって、かわいそうです。レンさんはなんて言ってるんですか」
「放っておけって、人ごとみたいにいうの。自分の親なのに、無責任でしょうって言い返して、それでケンカになるの」
「五月さん、ケンカするんですね」
「するわよ。明日香さんは、グリさんとケンカしないの?」
ケンカはしたことがないと言うと、五月は 「そんな夫婦、いるんだ」 と大げさでなく驚いた様子だった。
「そうね、ケンカしない方がいいわよね。胎教にもよくないわね……」
「そうですよ。赤ちゃん、声が聞こえるそうですよ」
楽しい話をしましょうかと言ったものの、明日香はすぐに思いつかない。
「赤ちゃんの名前、決まりそうですか」
「まだ……グリさんの名前も素敵ね。ほかのご兄弟のお名前は?」
「お姉さんがありす、弟が雅久都、なかなかの名前だと思います」
「なかなかの名前ね。宝塚が大好きなお母様が考えたの?」
「そうかも。今度聞いてみよう。わぁ、夕焼けがきれいですね……」
梅ケ谷社宅の三棟が近づいてくる。
古い社宅も、こうしてみると味わいがあるものだ。
いつのまにか愛すべき社宅になっている。
社宅棟の背面に秋の夕日が反射して、美しい色を見せていた。
『社宅ラプソディ』 1st season (終)