密事 夫と秘書と、私
壱
静かな水音が耳奥に響いている。
深夜0時前のプールサイドには、誰もいない。
孤独には慣れてしまった。
自宅マンションの高層階にあるプールで、私は1人泳いでいた。
ここは一面ガラス張りになっていて、煌めく夜景が一望できる。
——私は誰を待っているのだろう。
ゆらゆら……穏やかに揺れる水面に体を預け、天井を仰いでみる。脱力できる唯一の瞬間だ。
「疲れた……」
無意識に呟いていた。
疲れた?何に?
今日一日中何をしていた?
何もしていないじゃない。
そう、なーんにも。
夫は今日も帰ってこなかった。
私、小笠原美咲には夫がいる。大手IT企業のCEOをしていて、年齢は私より15も上。しかもバツイチ。
夫婦といってもほとんど形だけのもの。
親が勝手に相手を決めてきたから、婚姻届にサインをし、形式ばった結婚式を挙げた。まぁそういう感じの、夫婦。
夫が自宅に帰ってくるのは、月に5日もあれば良い方で、私はひたすら彼の帰りを待っているだけ。
コツコツ、コツコツ、
革靴の鳴る音が近づいてくる。
誰が来たのかはすぐに分かった。
プールサイドに革靴でやってくる人なんて、1人しかいない。
深夜0時前のプールサイドには、誰もいない。
孤独には慣れてしまった。
自宅マンションの高層階にあるプールで、私は1人泳いでいた。
ここは一面ガラス張りになっていて、煌めく夜景が一望できる。
——私は誰を待っているのだろう。
ゆらゆら……穏やかに揺れる水面に体を預け、天井を仰いでみる。脱力できる唯一の瞬間だ。
「疲れた……」
無意識に呟いていた。
疲れた?何に?
今日一日中何をしていた?
何もしていないじゃない。
そう、なーんにも。
夫は今日も帰ってこなかった。
私、小笠原美咲には夫がいる。大手IT企業のCEOをしていて、年齢は私より15も上。しかもバツイチ。
夫婦といってもほとんど形だけのもの。
親が勝手に相手を決めてきたから、婚姻届にサインをし、形式ばった結婚式を挙げた。まぁそういう感じの、夫婦。
夫が自宅に帰ってくるのは、月に5日もあれば良い方で、私はひたすら彼の帰りを待っているだけ。
コツコツ、コツコツ、
革靴の鳴る音が近づいてくる。
誰が来たのかはすぐに分かった。
プールサイドに革靴でやってくる人なんて、1人しかいない。