密事 夫と秘書と、私
「今日も祝賀会のあとは少し用事があってね。帰るか分からない」

残念、と肩を落として落ち込んだ素振りをしてみると、彼は私の背筋をつつつ、と撫でた。
全身が粟立つ。私は何を期待しているのだろう。

「瀬戸」

夫が秘書を呼ぶ。
部屋の外に控えていたのだろうか、はい、と瀬戸さんの静かな声が返ってくる。

「少し、美咲と2人にさせてくれる?」

「承知いたしました。お時間まで1時間ほどあります。ごゆっくりお過ごしください」

秘書は何もかも察しているかのように、すぐに部屋を出る。

パタン、扉の音が聞こえたと思った次の瞬間にはもう、強引な口づけと共に、私はソファに押し倒されていた。

敢えてこうなるように仕組んでいたの?

抗う余裕もないまま、はしたない姿にされて、執拗に攻められ、弄ばれ続けた。声を押し殺せば、さらに行為はエスカレートした。

逃げようとしても許してくれない。
体に篭る熱を逃したくて、必死に懇願しても「まだ駄目」と、それも許してくれない。

「好きだろう、焦らされるの」

そんなわけ無い、と首を振る。

しかしそう言われてみればほんの少し、こうされることを望んでいたのかもしれないという自分の欲に気づいて絶望する。

——いったい、何に縋りついているのだろう。これに何の意味があるのだろう。

こうして自我を失い乱れる私を、もう1人の私がひどく冷めた目で見ている。

「ツラい?」

ニヤリと笑う鬼畜な男に問われて、私は何度も頷いている。

「じゃあ、やめる?」

やめてと言ってもやめてくれないくせに。
最低、最悪、大嫌い。

心の奥底ではそう思っているはずなのに、一方的に与えられるもどかしい快楽に、溺れ続けている哀れな女がそこにいた。
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