密事 夫と秘書と、私
ふと思い直す。
そういえば先週、プールサイドで瀬戸さんに

——セックスがしたい

確かに私はそう言っていた。
だけど……あれはただの戯言だったのに。

「あー、違う。そうじゃなくて、」

そこまで言って口をつぐむ。
瀬戸さんがどこまで知っているのか分からないけど、全て知った上なのかもしれないけど……
私の口からは言わない。

もういい、シャワー入る、と言えばバスタオルを手渡され「急いでください」とシャワールームへ促された。

しかし身も心も重い。活動を拒否している。もう全部嫌になってきた。体もだるい。

私は急に何もかもめんどくさくなって、その場で立ち止まった。手渡されたバスタオルが手から滑り落ちる。

「髪、崩れちゃったの……」

「この程度なら簡単に直せます」

瀬戸さんはそう言って髪を触る。
そして無機質な冷たい手が、私のうなじに不意に触れた。

「っ!?」

ちょっと手が当たっただけなのに、不完全燃焼な体が過剰反応してしまう。
恥ずかしくて死にたい。

「び、びっくりした!急に触んないでよ」

「やっぱり、顔色が優れませんね」

瀬戸さんはそう言って私の顔を覗き込む。
逃げ出したい。顔に熱が集まってるのが分かる。

「大丈夫だから」

しかし瀬戸さんはそんな私をよそに、いつものように私の額や首元をヒタヒタと触る。

いつもならまったく気にならないその行動も、全身敏感になっている今は妙に熱っぽく感じられて、体の芯が疼いてしまう。
それを悟られないように体を堅くして、俯き加減で耐えた。ぎゅっとドレスを握る。ドクドクと全身に血が周り、目頭が熱くなってくる。
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