密事 夫と秘書と、私
すると瀬戸さんは私の背後にまわり、そっと私の肩に手を置いて静かに囁やいた。

「美咲さん……今日はもうこのままお休みになられては」

耳元にかかる微かな息でさえ私をゾクゾクとさせる。もうどうかしてる。

「なんでよ、」

「そのような顔で公の場に出られるつもりですか?」

私は近くにある鏡で自分の姿を見た。

「顔……?」

「はい、男を誘うような目をしていますよ」

そう指摘されて目を見開く。

「ば!馬鹿じゃないの!?してないし」

私は声を荒げながら振り返り、後ろに立つ瀬戸さんを睨んだ。
今物足りなさは感じているのは確かだけど。
目の前にいるこの男を誘った覚えはない。断じてない。……体が勝手に反応しただけで。

「そうですか」

瀬戸さんはそう言って、私の手の甲にそっとキスを落とした。まるで何かを試すように。
びくっと飛び跳ねそうになったものの、なんとか平然を装う。

なぜだろう、ドキドキする。過剰に反応するのも恥ずかしくて、顔を顰めた。

「何よ」

初めてされるその行動に対して、どのような意図があったのか。彼の固まった表情からは読みとれない。

「とにかく、今日はこちらの部屋でお休みください。体調不良とお伝えしておきます」

「……分かった」

せっかく準備したのに。などと口では文句をいいながら、正直ほっとしていた。

ただでさえ、いつだってパーティは苦痛だ。そのうえ、この仕打ち。愛想笑もできそうにない。

もう心の中はぐちゃぐちゃだ。苦しい。

私は床に落ちたバスタオルを拾い上げ、重い足取りでバスルームに向かった。
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