【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉

「ファルマス伯。わたくし、まどろっこしいのは嫌いなので単刀直入にお尋ねしますが」
「何なりと」

 今日ファルマス伯を呼んだ目的は二つ。

 一つは縁談を取り下げてもらえるよう嫌われること。そしてもう一つは、なぜ私に縁談を申し込んだのか、その理由を確認すること。
 そもそも理由次第では、他の女性にしてくださいとお願いするだけで済むかもしれないし。

「なぜわたくしに縁談を申し込みに? わたくし、ファルマス伯とはご挨拶すらしたことがないと記憶しておりますが」

 私がつっけんどんに尋ねると、彼は瞼を伏せ立ち上がる。

 時間稼ぎのつもりなのか……彼は私に背を向けたまま、側に咲く薔薇に手を伸ばした。

 ――それはほんの些細な仕草。けれどそのあまりにも繊細で優雅な動きに、私は不覚にもときめいてしまった。多くの女性が(とりこ)になるのも無理はないだろう。

 彼は数秒の沈黙の後、こちらを見ないまま口を開く。

「気付いていらっしゃらないかもしれませんが、あなたはそこにいるだけで目立つのですよ」

 それはとんだ皮肉だった。――とはいえ、事実には違いない。

「ふふっ。そうよね、わたくし目立つわよね。当然、悪い方の意味で……でしょうけど」
「そんなつもりは……」
「いいのよ、わかってるもの。それに、目立つというのならあなたの方こそ、いつもご令嬢方に取り囲まれているわね」
「はは……それは生まれのせいでしょう。私が認められているわけではない」
「ご謙遜を」

 まさか本当にそのように思っているわけではあるまい。
 私はパチンと音を立て、手に持つ扇を閉じる。

「わたくしの評判を知らないとは言わせませんわ」

 ――そう。これこそが本題だ。私の評判を知っていながら縁談を申し込む者などいるはずがないのだから。

 私の本音の問いかけに、ファルマス伯はようやくこちらを振り向いた。
 そして何を考えているのか、眉一つ動かさずに答える。

「氷の女王……と」
「そうよ。そしてそれは事実であると申し上げているの」
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