【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉

 私は今後の対応に頭を悩ませる――と、そのときだ。
 部屋の扉がノックされ、「入ってもいいかな」と声がする。
 返事を決めかねていると、その声の主は私がまだ眠っているとでも思ったのか、ドアを開け中に入ってきた。

 ――それは見知らぬ青年だった。
 ややくせっ毛の赤い短髪に、焦げ茶色の温かな瞳。年は私と変わらないくらいだろうか。優しい顔立ちをしている。

 彼はやはり私が寝ていると思っていたようで、ベッドに私の姿がないことに、酷く驚いたようだった。
 彼はその顔のまま部屋を見回して――窓際の私と目が合うと、まるでお化けでも見たかのように「わあっ!」と大声を上げる。

「お……驚いたよ。起きてたんだね。返事が無かったから……てっきり」

 彼は申し訳なさそうに、私の方へと近付いてくる。そして今度は、柔らかく微笑んだ。

「気分はどう? 君、昨日川岸に倒れていたんだよ。どこか痛むところはない? お医者様に診てもらって、特に大きな怪我はないって言われたんだけど……もう一度診てもらった方がいいかな?」

 それは温かな笑みだった。優しい声と、誠実な眼差しをしていた。
 そんな彼の態度に、私は彼が信頼に値する人物だと見定める。

 ――まずはお礼を言わなくちゃ。そう思ったが、けれどその直後、私は重大な事実に気が付いた。
 なんと、声が全く出ないのだ。

 話そうとしても、喉から漏れるのはかすれた空気のみ。これはいったい……。

 私は喉元に手を伸ばす。

 熱は……ない。痛みも腫れもない。
 ということは、もしかしてあれだろうか。失声症(しっせいしょう)というやつだろうか。今までに何度かそうなった人を見たことがある。強いストレスを感じると、急に声が出なくなるという……あれ。
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