【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉
――でもまさか、この私が?
私は自身の不甲斐なさに衝撃を受けた。千年も生きている私が声を失うなど……屈辱以外の何物でもない。――なんということか。
正直、声を失うこと自体はさして問題ではない。特に困ることもないのだから。問題は、声が出なくなった……その、理由――。
「あの……君、大丈夫?」
何も答えられないでいる私の顔を、心配そうに覗き込む青年。彼は「やっぱり医者を」と呟いて、部屋を出ていこうとする。
私はそんな彼の姿に、心配をかけてはならないと――腕を掴んで引き留める。
「――え?」
当然、彼は動きを止めた。私の方を振り向いて、困惑げに眉を寄せる。
私はそんな彼をじっと見返し、ゆっくりと首を横に振る。
すると彼は、何事かを悟ったようだった。
「もしかして、君……声が……?」
――勘も悪くないわね。
肯定の意を込め微笑むと、彼は言葉を詰まらせる。
「……えっと――あぁ、困ったな。その……しゃべれないのは、元々、なの?」
気まずそうに尋ねる彼。その問いに、私は首を横に振る。
「え……。じゃあ……川に落ちて、今朝からってこと?」
――そうよ。と、私は頷く。すると途端に、彼の顔色が変わった。
「そんな、一大事じゃないか! 今すぐ医者を!」
声を荒げ、今すぐにでも駆け出そうとする彼の腕を、再び掴む。そして首を横に振った。
「本当に、呼ばなくていいの?」
「…………」
「そ……っか」
――そして、短い沈黙。
「……ええっと」
しばらくの静寂の後、彼は私を椅子に座らせた。彼自身も、私の反対側へと腰を下ろす。
「筆談ならできるよね。まずは、自己紹介しようか」
スラックスの後ろポケットから取り出した手帳とペンを、私に手渡す。そして――。
「僕の名前はライオネル・マクリーン。君の名前は?」と、太陽のような屈託のない笑顔を私に向けた。その表情に、私の警戒心はすっかり消え失せてしまう。