【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉

 結局ルイスはそれ以上何も言うことなく、その場に立ち上がる。
 そしてライオネルに向き直ると、事務的な様子で(こうべ)を垂れた。

「この度はアメリア様をお助けいただきまして、誠にありがとうございました。何とお礼を述べたらよいか……」

 ルイスの言葉に、ライオネルは慌てて首を振る。

「――い、いや。大したことは……。困っている人がいたら助けるのは当たり前ですから」
「いいえ、なかなかできることではありません。大変勇気ある行動です。我が主も、直接礼を述べたいと仰っておりました」

 ルイスの言葉に、ライオネルは不安げな顔をする。

「あの……先ほどうちの執事には、あなたは伯爵家の使いだと聞いたのですが……その、大変ぶしつけながら、家名をお伺いしても……?」

 確かに私はまだ姓を名乗っていないわけだから、ライオネルの問いはもっともだ。
 私が二人のやり取りを見守る中、ルイスは堂々と答える。

「これは名乗り遅れて申し訳ございません。(わたくし)はウィンチェスター侯爵家に仕える者。そしてこちらのアメリア様はサウスウェル伯爵家ご令嬢であり、またウィンチェスター侯爵閣下のご嫡男、ファルマス伯爵ウィリアム・セシル様の婚約者であらせられます」
「……っ」

 瞬間、ライオネルは絶句した。

 彼は、まさか私が侯爵家子息の婚約者などとは思いもしなかったのだろう。放心したまま、ウィンチェスターの名を何度も繰り返し呟いている。
 この国でその家門を知らぬものはいないほど――その名前を聞いて、驚くなと言う方が無理な話なのだ。

 そう――彼は確かに気圧されていた。
 貴族という名の権力に。騎士などとは比べものにならない、圧倒的な力に――。
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