【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉
彼は音もなく立ち上がり、私に背を向けた。
その手が、開け放たれたままの窓枠に掛かる。
「ではさっそくですが……ウィリアム様のお命をお救いするために、僕があなたに望むこと。それはただ一点のみです」
背を向けたまま再び語り出すルイス。そのどこか憂える声に、身体が緊張で強張る。
ルイスが私に望むこと……きっとそれこそが、ウィリアムの呪いを破る方法なのだ。
私はルイスの言葉の続きを待つ。少しの沈黙の後、ようやく彼は言った。
「あなたには、ウィリアム様を愛していただきます」
「――ッ」
放たれた言葉は私の想像を絶するもので――私は戦慄する。
だってあり得ないことだ。ウィリアムを愛せなどと……それでは彼は死んでしまうではないか。
けれどルイスは首を横に振る。
「大丈夫です。彼は死にません。僕があなたの、傍にいる間は」
――全く、意味がわからない。
「先ほどは言いませんでしたが、僕にはもう一つ力があります。それは他人の能力を制御する力。ですから僕が傍にいる間は、彼があなたの力によって死ぬことはありません」
「――っ」
――何だ、それは。
それなら……そんなことができるなら、ルイスさえいれば私は彼の傍に居続けられるということではないのか。呪いを解かずとも――ルイスがいてくれさえすれば、彼は死なないということではないのか。
――一瞬で頭に血が上る。ウィリアムの命を助けたいと言っておいて、結局この男の目的は私を手に入れることだけなのではと、そんな考えに囚われる。
私の右手が、自分の意思とは関係無しに――自分の太ももへと伸びた。
今までもずっとそうであった……そうしてきた、それと同じように――一瞬のうちにルイスとの距離を詰め、ドレスの裾を翻す。そして、隠し持った短刀を――。