【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉
彼は人々に追われ、深い森の奥に逃げ込みました。そして人間になっても尚残るその絶大な神の力で、一人の少女を生み出しました。ハデスはその――漆黒の髪と瞳を持つ――美しい少女にソフィアと名付け、それはそれは大切に育てました。
ソフィアが言葉を話せるようになると、ハデスは言いました。
「いいか、けっして私以外の人間には近づくな」
ソフィアは尋ねます。
「どうして?」
「我らの黒い髪と瞳、それを人間は恐れるからだ」
ハデスの悲しげな表情の意味が、幼いソフィアにはまだわかりませんでした。
それから何年も――何十年も――何百年も、ハデスとソフィアは森の中で二人きりで暮らしました。
ソフィアはハデスの言い付けを守り、森の外へ出たことはただの一度もありません。
そうして千年がたったある日、一人の青年が森へ迷い込んできました。青年は深い傷を負っていて、今にも死んでしまいそうでした。
ソフィアは初めて見るハデス以外の人間の姿に驚きました。けれど、青年の辛そうな表情に、思わず手を差し伸べてしまいます。
青年もまたソフィアの人間離れした容姿を恐れますが、傷の痛みに気を失ってしまいました。
しばらくして青年が目を覚ますと、傷が綺麗に消えているではありませんか。
青年は、少女が傷を癒やしてくれたことをすぐに理解しました。そして少女に一言お礼を言おうと、森の奥へ奥へと進んでいきます。
しばらく進むと、澄んだ水をたっぷりとたたえた美しい湖が見え、そこから歌声が聞こえてきました。小鳥がさえずるような可愛らしい歌声に、青年は心打たれます。