【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉
青年はそっと少女に近づき、声をかけました。
「君が僕を助けてくれたのか?」
少女はその声に肩を震わせましたが、青年の優しげな笑顔に、ハデスの言い付けも忘れて言葉を返します。
「そうよ」
ソフィアは無意識のうちに微笑んでいました。
青年は、その笑顔と鈴を鳴らしたような声に、一瞬で心奪われます。
「僕の名前はカイル。君の名前を教えてほしい」
「ソフィア。……ソフィアよ」
「ソフィアか。美しい名だ。助けてくれてありがとう、ソフィア」
ソフィアも、カイルの凛々しくてたくましいその姿、そして優しげな笑顔に、自然と心引かれました。
ソフィアはカイルから、外の世界がどうなっているかを聞きました。
既に地上に神はおらず、人々は争いを繰り返している、カイルは悲しそうにそう言います。
カイルは隣国の王子でした。内乱の末、国から逃げ出してきたのです。逃げる間に臣下ともバラバラになってしまって、行くあてもないとのことでした。
ソフィアはカイルを家に連れ帰りました。彼女はハデスに頼みます。どうか彼をここにおいてあげてほしい、と。
けれどハデスが頷くことはありません。それどころか今までにない形相で怒ります。なぜ言い付けを破ったのか、と。
ハデスは既に気が付いていました。ソフィアがカイルに惹かれていることに。そしてまた、カイルもソフィアを愛してしまっていることに――。
ハデスはそれがどうしても許せませんでした。ハデスもまた、自らの手で生み出したソフィアを心の底から愛してしまっていたからです。
それにハデスは理解していました。人間の命の短さを、儚さを。神の力を持つハデス、そしてそれを受け継ぐソフィアと、人間のカイルとでは生きる時間が異なることを――。