【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉
ハデスの怒りを買い、湖のふちで泣き崩れるソフィアを、カイルは強く抱きしめます。
「僕と一緒にこの森を出よう。君と一緒なら、もう一度やり直せる気がするんだ」
ソフィアは頬を赤く染めました。けれどもすぐには頷けませんでした。自分がいなくなったらハデスは独りきりになってしまいます。彼女はそれがどうしても気がかりだったのです。
ソフィアはカイルに数日待ってほしいとお願いし、ハデスの元に戻りました。
そして再びハデスに懇願します。
「あの人をここにおいてください」
「それはできない」
ハデスはソフィアを睨むように見つめます。
「わからないのか。お前とあの男とでは、生きる時間が違うのだ」
「それでも、ほんの短い時間でも、私はカイルと一緒にいたいの。ごめんなさい、ハデス。私、彼を愛してしまったの」
ソフィアのその言葉に、ハデスはとうとう諦めました。
彼はまた理解していたのです。いつかこんな日が来ることを、ソフィアが自分のもとを去ることを。それをわかっていて、彼は自分のつくりあげた器に、確かに人の魂を入れたのですから。
「ならばあの男と共にここを去るがいい。だが二度とこの森に立ち入ることは許さん」
その言葉を最後に、ハデスはソフィアと二度と口を利くことはありませんでした。
*
とうとう、ソフィアがカイルと共に森を去る日が訪れました。その日もハデスはソフィアの前に姿を見せず、部屋に閉じこもっていました。
ソフィアはカイルと共に、森の出口へと辿り着きました。ソフィアは森を振り返ります。
千年もの長い時をハデスと二人で過ごした森、そこを離れるのはソフィアにとってとても辛いことでした。けれどそれでも、彼女はカイルと共に生きることを選んだのです。
ソフィアはカイルに手を引かれ、森の外へ出ました。すると空から一羽の白い梟が舞い降りて、ソフィアの肩にとまります。
ソフィアはすぐに気が付きました。梟のその真っ黒な瞳の奥から、確かにハデスの気配がすることに。
そうです。ハデスはソフィアが心配で、自分の意識の一部を梟に移し、ソフィアのもとへ放ったのです。
ソフィアはその梟を連れ、カイルと共に森を去りました。