【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉

 ルイスは再び話し出す。

「アメリア嬢の社交場での評判は惨憺(さんたん)たるものでございました。――が、サウスウェル家で働く使用人の間でのそれは正反対でございました。彼女は確かに無口で無愛想ではあるそうですが、質素(しっそ)倹約(けんやく)質実(しつじつ)剛健(ごうけん)、時には自ら料理を振る舞い、使用人の服を縫い、読み書きのできない者にそれを教え、個々人の能力を把握し、それをさらに発揮させるように仕事を割り振ることができるのだと」
「そんな……馬鹿なこと」
「ええ、おかしいのです。使用人は皆(うれ)えておりました。マナーもダンスも完璧なお嬢様が、なぜ社交場ではああなのかと。なぜああも人間嫌いな振りをなさるのかと……ね」
「……ッ」

 ルイスはニヤリと口元を歪ませる。

「実は以前、彼女の家庭教師(ガヴァネス)をしていた女性にも会ってきたのです。その方が家庭教師(ガヴァネス)であったのは八歳からのたった一年であったそうですが……彼女は全て完璧だったそうですよ」
「全て?」
「そうです。何一つ教えることは無く、ただ体裁のためだけに一年勤めたのだと仰っていました」
「そんな……。八歳で完璧など……あり得ない」
「そうでしょう? ――では話を戻しますが」

 ルイスはお気に入りの玩具(おもちゃ)を見つけた子供のように、嬉々として語る。

「これはあくまで私の推測ですが、アメリア嬢は実は人間嫌いではなく、嫌いな振りをしているのではないでしょうか。こちらからの縁談もそれを利用して取り下げさせるつもりなのでしょう。ウィリアム様が使用人にもお優しいというのは周知の事実。アメリア嬢は自分のメイドへの酷い扱いを見せれば、こちらから縁談を取り下げるはずだと考えたのです」

 ルイスの話す内容に、ウィリアムはますます困惑する。

「なぜ、何のためにそのような振りを……?」
「私にもそれは(わか)りかねます。けれど、この縁談をなかったことにしたいのは事実でしょう」
「いや……だがたとえそうだったとして、メイドにお茶をかけるなど――そんなことまでする必要があるのか?」

 それほどまでに縁談が嫌だったのなら、一言そう言えばいいだけだ。言ってくれさえすればこちらから取り下げる。嫌がる相手と無理に縁談を進めるほど、自分は不出来な男ではない――ウィリアムはそう自負している。

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