【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉
「アメリア嬢が人間嫌いだということをこちらは知っているんだ。彼女は俺にそれを確認までした。こちらはその上で結婚を申し込んでいるのだから、嫌なら誰からの縁談も受けるつもりがないと、それだけ言えば十分だろう?」

 わざわざメイドにお茶をかける理由――ウィリアムにはどうしてもそれがわからない。
 ルイスは狼狽(うろた)える主人を落ち着かせるように、一拍()を置いた。

「ええ、そうですね。仰りたいことはわかります。けれどもし……アメリア嬢があなたに嫌われたかったのだとしたら、どうでしょう」
「……何?」
「ただ縁談を取り下げさせるだけではなく、あなたに嫌われたかったのだとしたら」
「そんな……彼女とは今日まで話したこともなかったのだぞ」
「では、お茶をかけられたメイドは火傷を負っていましたか?」
「なぜ……そんなことを」

 ウィリアムはそう言いながらも、ルイスの真剣な表情に先ほどの記憶を思い起こす。
 火傷……メイドがお茶をかけられたとき、熱そうな素振りをしただろうか? 皮膚は赤くなっていただろうか?

「……おそらく、火傷はしていなかったと思う。――つまりは、それすらも示し合わせていたと?」

 ウィリアムの問いに、ルイスは頷く。

「おそらくそのとおりでございます。メイドはお茶をかけられることを知っていて、あらかじめ冷ましておいたのでしょう。つまりメイドがアメリア嬢のドレスにお茶を零すところから、全ては決められていたということです」
「そうまでして、この俺に嫌悪されることを望んだと? なぜ」

 ウィリアムは自問する。
 彼は自分が人から好かれる部類の男だという自信があった。人から好かれ――また、好かれたいと思われる人物であると。
 それが嫌われたいなどと思われることになろうとは……。

 なぜ、なぜだ。ウィリアムは頭を悩ませる。

 そんな主人にルイスは一つ咳払いをすると――容赦なく、ある事実を突きつけた。

「ウィリアム様、それはアメリア嬢があなたのことを好いておられないからです。むしろ、嫌っておいでなのでしょう」
「――な」

 ウィリアムは再び絶句する。

 嫌われている? この俺が……?
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