【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉
「ウィリアム様」
ルイスは胸の内ポケットから懐中時計を取り出し、きっかり五分経ったことを確認してから再びウィリアムを呼んだ。
するとウィリアムはようやく瞼を薄く開き、焦点の定まらない瞳でルイスを見上げた。
「――ル……イス?」
ウィリアムはルイスの顔を認識して、呆けた声を上げる。
「なんでお前がここに……。ま……まさか夜這い!?」
ウィリアムは勢いよくベッドから起き上がり、次の瞬間にはルイスから逃げるようにベッドの端に寄っていた。――ルイスの額に青筋が浮かぶ。
「朝っぱらからふざけないでいただけますか」
「悪い悪い。ちょっとした冗談だ」
「あなたの冗談は少しも面白くないんですよ」
「酷いな」
「事実を申したまでです」
ウィリアムは時折こうしてルイスに冗談をけしかけるのだが、残念なことに今だかつてそれが通じたことはない。
ウィリアムはつまらなそうにため息をついて、乱れた前髪を掻き上げ――その場に座り直した。
「それで? 何を聞きたいんだ。どうせお前のことだから、この一晩のうちに粗方予想をつけてあるんだろう?」
「まぁ。ですが三点ほど確認したいことがございます。まず一つ目ですが――」
ルイスの瞳が、責めるようにウィリアムを見据える。
「昨夜お帰りになった際、あなたはなぜあのように嬉しそうになさっていたのですか」
「……は?」
「答えてください。アメリア嬢の何が、あなたをそうさせたのです」
「何が――と言われても……」
ウィリアムは困惑する。
その質問にいったいどんな意図があるんだ? ――一度はそう思ったが、けれどルイスのことだ。何か意味があるのだろう。ウィリアムはそう思い直す。
「そうだな……多分、アメリア嬢が思いの外面白い方だったから……かな」
「……面白い?」
「そうだ。お前の言ったとおり彼女の正体は悪女ではなかった。彼女はただの人間だったよ。けれど……」
「……けれど?」
「彼女は俺に言った。決して私を愛するな――と」
「…………」
「な? 面白いだろう?」