【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉


 今回の人生で私が生を受けたのはこのサウスウェル伯爵家だった。
 我がエターニア王国で伯爵の爵位が授けられている家は二百ほど。その上の侯爵の爵位を持つ家は三十ほどだから、如何(いか)に侯爵の身分が高いのかがわかるだろう。

 その侯爵の御子息ファルマス伯……そう、ウィリアム・セシルが私に縁談を申し込んできたのである。ウィリアム・セシル……私がかつて愛した彼――。

 けれど、これは絶対に受けてはならない縁談だ。何がどうなって、いったいどんな理由で彼が私に縁談を申し込んできたのかは知らないが、私が彼に近付くことは許されない。

 今まで極力関わらないように生きてきた。社交は必要最低限のみ、お茶会も、夕食会も、彼の視界には入らないように気をつけてきた。
 それもこれも、全ては彼を不幸にしないため。こんなことで、彼の命を脅かしたりはしたくない。

「お父様、その縁談お断りしてくださいませ」

 私の言葉に、お父様はピクリと眉を震わせた。さすがに侯爵家からの申し出を断るわけにはいかないということだろうか。しかしこちらには切り札がある。

「娘は傍若無人(ぼうじゃくぶじん)で恥知らず。嫁がせなどしたらセシル家の恥となることでしょう、私とて我が家の恥をこれ以上晒すわけにはいかない、申し訳ありません。などとお返事なさればよろしいですわ」

 私は淡々と意見を述べる。
 するとお父様は両腕を組んで、椅子に深く腰かけ直した。

 ――短いブロンドの髪が微かに揺れる。切れ長の瞼はさらに鋭く細められ、そこに揺れるのは深い碧の瞳。
 最近顔に皺が目立つようになってきた。年は四十になったばかりだが、この皺を深くした原因が自分だと思うと、さすがの私も少しは申し訳ない気持ちになる。

 けれどそれとこれとは話が別だ。いくらお父様がこの縁談を進めようとしても、それだけは受け入れられない。それならば私が今ここで死ぬ方がマシ。
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