【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉
「相変わらずだな、クリスは」――と、冷え切った空気を打ち破る――王太子アーサーの声。
突然背後から聞こえてきたその声に、クリスは振り向くよりも先に顔を曇らせた。
それは彼がアーサーを好ましく思っていないからなのか、あるいはアーサーの登場によって、双子の弟の表情から緊張感が消え去ってしまったからなのか――彼自身にもよくわからなかったけれど。
「……殿下。お出でになるとは聞いておりませんでしたが――」
王太子に向けるにしてはあまりに憮然とした態度で、クリスはアーサーと、そして双子の弟らを順に見やる。
「せめて先触れを。それに勝手に屋敷内を歩き回るのも止めていただきたい。ここは貴方の住まう王宮ではないのです」
「ははっ、何を今さら。この屋敷は王宮に比べてずっと平和で安全だと思うが?」
「たとえそうであろうと、あなたに万一のことがあれば責任を問われるのは我が家門。せめて単独行動は控えていただかなければ」
「確かに、それはそうだな。だが今日は許してくれないか。友人に会いに来ただけなんだ。わざわざ次期当主の君の手を煩わせるつもりもない。――もちろん、護衛も不要だ」
「……今日も、の間違いでしょう」
「なんだ、わかってるじゃないか」
エターニア国の第一王子であるアーサーという男は、なんとも掴みどころのない性格で有名だった。けれどそれ以上に噂されるのは、彼の外見上の美しさ。
童話にでも出てきそうなほど整った顔立ちに、女性のごとく白い肌。銀色の細く長い髪は首の後ろでざっくりと纏められ、その立ち姿だけでも神秘的だ。
加えて彼をより一層印象づける、その深いアメジスト色の――まさに紫水晶の名のごとく――透き通った瞳。その瞳に見つめられると、誰もが自分の心を見透かされたような、そんな不思議な気持ちになった。