【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉
その言葉に、二人は黙って顔を見合わせた。――飲んだことなどあるはずがない。
エールというのはつまりビールのことだ。しかしビールは庶民の飲み物であるとされている。そのため貴族である二人が口にする機会はなかった。見たことすら初めてなのだ。
――この泡の乗った黄色い飲み物、本当に飲めるのか? 腹とか壊さないかな……。
エドワードがブライアンを見やれば、彼も同じことを思っているのかジョッキをじっと見つめていた。
けれどずっとそうしているわけにもいかない。二人は意を決す。――と同時に取られる、アメリアの音頭。
「今日もお疲れ様! かんぱーい!!」
「か、かんぱーい」
「お、お疲れー」
――今の棒読みだったな、と反省しながら、エドワードはアメリアより一拍遅れてエールを喉へと注ぎ込む。
同時に口の中に広がるのは、ほのかな苦味と深い香り。ワインとは決して比べられないが、フルーティーさも兼ね備えている。そして何よりアルコールをほとんど感じない。これならいくらでも飲めそうだ。
「――ッ、これ……」
「結構、いけるな」
「ふふっ、そうでしょ? たまに飲みたくなるのよね」
「たまにって……アメ……ローザ、君本当に俺たちより年下?」
「酒を飲むのはまだ早くないか?」
「あら、二人が十五のときはどうだったのよ?」
「俺たち……?」
アメリアの言葉に、三、四年前のことを思い出してみる。
「まぁ、飲んでた、な」
「ああ、兄さんの部屋からこっそり拝借して、でも空きビンが見つかって叱られたりしたな」
「あぁー、あれは確か、客に出すはずのものだったんだっけ」
「そうそう」
二人は昔話に花を咲かせる。