【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉
それは何の不自然さもない、礼儀にのっとった挨拶だった。
けれど同時に、出来すぎた何かを感じたのも、疑いようのない事実だった。
腹の底の見えない――得体の知れない何かがある、アメリアは直感的にそう感じた。
けれど隣にはウィリアムがいる。不審に思われるような態度を取ってはいけない。
だから彼女はにこりと微笑み返す。
「ウィリアム様からお話は伺ってるわ。とても有能な方だと」
「大変恐縮にございます」
ルイスの一見完璧な笑み。けれど笑っているのは口元だけで、目は少しも笑っていないように思える。
人を試すような――けれどそれを隠そうともしない強い眼差し。それでいてどこか温かい、吸い込まれそうな漆黒の瞳。
そして何より特徴的なそのオーラ。
言われなければそこにいると気付かせない気配の無さ。けれど一度気付いてしまえば、目を離すことを許さない強烈な存在感。
千年生きてきたアメリアも、ルイスのような者とは出会ったことがなかった。――なるほど、彼は確かに只者ではなさそうだ。この男には気を付けなければ。
アメリアはそんなことを考えながら、心にもない言葉を放つ。
「これからよろしくね。仲良くしましょう、ルイス」
「はい、我が侯爵家の次期夫人となられるアメリア様は、既に私の主人同然でございます。何なりとお申し付けください」
「ありがとう。頼りにさせてもらうわね」
「ええ――アメリア様」
*
ウィリアムに手を引かれて馬車に乗り込むアメリアの後ろ姿を、ルイスはじっと見つめていた。
その瞳に映るのは、果たして――。
――風が凪ぐ。
ルイスは二人が馬車に乗り込んだのを確認し、扉を閉めると御者席に座った。
その顔には既に先ほどの笑みは無く――。その瞳に揺れるのは……微かな悲哀。
馬車がゆっくりと動き出す。道のりは長い。
ルイスはただ空の一点だけを見つめ……彼女の数奇な運命に、思いを馳せた。