【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉

 それはウィリアムにとって、聞き覚えのない話だった。
 そもそも、ウィリアムはアメリアのことをほとんど知らないと言っていい。二人はまだ婚約して一月も経っておらず、それどころか、会うのすら今日で三度目なのだ。
 けれどそんなことを知る由もないカーラは、顔を赤く染める。

「やっぱり知らないのね! 兄さまたち、舞踏会の最中(さなか)にパブに連れていかれたのよ。あぁ、口にするのも恐ろしい。あの方……どこの誰ともわからぬ男がいる場に、恥ずかしげもなく――」

 カーラは声を震わせる。

「わたしにだってプライドというものがありますのよ! あの方に……あんな方にウィリアム様を……。なぜなのです! あの方はウィリアム様にふさわしくありませんわ!」

 ウィリアムを睨むように見つめるカーラの瞳。
 けれどウィリアムは、そんなカーラの視線をただ冷静に受け止める。

「二人がそう言ったのか?」
「そうですわ!」
「ならそれは、お前の目で見たことではないよな?」
「――っ! ウィリアム様は、兄さまが嘘をついているとでも言うの⁉」

 カーラはカッと目をむいて、ボートから勢いよく立ち上がった。(はず)みでボートが揺れ、身体のバランスを崩しかける。けれど彼女は足に力を入れ、なんとか踏みとどまった。

 これだけは――引けない。

「落ち着け。そうは言ってない」
「それ以外の意味なんて……!」
「そうだな。確かにそうだ。だがあの二人は、アメリアのことを嫌いだと言ったか? 迷惑だと? 失礼だと罵ったか?」
「それは……」
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