【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉
「……さて。方針は決まったけど……今からどうしようかしら」
私は周囲を見回す。
けれど目印の一つもつけずに走り回ってしまったため、ここがどこだかわからない。
「ここ、どの辺なのかしら」
ドレスの裾についた土埃を振り払い、再び辺りを見回してみる。が、見える景色はどちらを向いても木々ばかり。
とはいえここは湖の側である。少し歩けば小川の一つや二つあるだろう。
そう考えた私は、手始めに耳を澄ませてみた。すると木々のざわめきの合間に、確かに聞こえる微かな水音。
「やっぱりね」
私は独り呟いて、意気揚々とその音のする方角へ向かっていった。
しばらく歩くと、視界が大きく開ける場所に出た。どうやらこの先は崖のようだ。
水音が大きい。崖下に川が流れているのだろう。
私は崖へと近づいた。やはり下には川が流れている。深さはわからないが川幅はそれほど広くない。反対側の崖はすぐ目の前だ。――とはいえ。
「ハズレね」
大きくないとはいえ、あの湖にこの幅の川は繋がっていなかったと記憶している。つまり、振り出しに戻る。
「他に何か……あら?」
再び辺りを見回せば、少し離れた場所に帽子を被ったドレス姿の女の子がたたずんでいた。
――あれは……カーラ様?
彼女は崖の際に立ち、じっと川面を見つめている。それも、肩を小さく震わせながら。
――泣いてるのかしら? ウィリアムと何かあったとか……?
「カーラ様?」
見て見ぬ振りをするわけにもいかず、私は彼女に近付きそっと声をかけた。
すると肩を大きく震わせて、彼女はこちらを振り返る。
刹那――彼女の赤く腫れあがった瞼に、私を睨むような視線に、私の予感が確信に変わった。
「どうして、あなたがここにいるのよ」
私を憎らしげに見据える彼女の瞳。深い悲しみに満ちた声。
そんな彼女の姿に、わずかばかりの罪悪感が芽生える。
だって、今の私とウィリアムの間には、少しの愛もないのだから。
だがそんなことは口が裂けても言えない。現に彼女がこうやって泣いているということは、ウィリアムは私との契約内容を彼女には伝えなかったということだ。
つまり、今の私が彼女にしてあげられることは何もない。彼女だって私に慰められても嬉しくないだろう。