【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉


 アルデバラン公爵とは、アーサーの母である王妃フローラの兄に当たり、非常に野心家な人物だ。彼の持つ権力の大きさは国王にも匹敵し、この国で彼の言葉を無視できる者はいない。

 アーサーは公爵の一人息子ヘンリーと年が近く懇意にしているものの、野心的な公爵とは馬が合わず、昔から苦手なのである。
 そのため、極力接触を避けたいというのがアーサーの本音だった。

「確かに、この面子(メンツ)で彼女を探し回るのは得策ではないだろうな」
「だがルイス一人というのも……。彼女は俺の婚約者だ、行くなら俺も一緒に――」

 ウィリアムは言いかけるが、ルイスは首を振る。

「いいえ、なりません。その馬車は四頭馬車です。一頭ならまだしも、二頭も減らしては馬車が進みません」
「それを言うなら、お前が行ってしまってはそもそも御者(ぎょしゃ)がいなくなるだろう」

 ――二人は睨み合う。
 けれど、その間に割り込むエドワードとブライアン。

「御者なら俺たちが」
「前に街で(つじ)馬車(ばしゃ)引いてる奴に教えてもらった」

 それを聞いたルイスは口角を上げる。

「だ、そうですよ」
「――っ」

 ここまで言われてしまっては反論の余地なしである。
 言葉を詰まらせるウィリアムに、ルイスは容赦無く続ける。

「ウィリアム様は皆様と王都に戻り、サウスウェル伯爵にこの件をお伝えください。じき日が暮れます。いずれにせよ、今日中にアメリア様を王都にお連れするのは難しいでしょうから」
「……わかった」

 ルイスの言い分に、ウィリアムは渋々承諾するしかなかった。

 ほどなくして、エドワードが馬を一頭連れてくる。

「ほらよ。こいつの名前はメテオだ。ま、大人しい奴だから大丈夫だろ」
「メテオ? 名前と性格が相反してますね」
「まぁそれはご愛嬌ってことで」

 エドワードがルイスに手綱を渡す。

「あ、ちなみに鞍も(あぶみ)もないけど……」

 エドワードは言いかけるが、彼の心配をよそに、ルイスは既にメテオに跨がっていた。

 ルイスは馬上から四人を見下ろし、にこりと微笑む。

「そんなものは必要ありませんよ。――ところで言い忘れておりましたが、アルデバランには既にべネスを向かわせてあります。アメリア様の居場所はすぐにわかるでしょう。――では」

 ルイスはそれだけ言い残し、メテオと共に颯爽(さっそう)と駆け出した。
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