君の記憶の中の僕、   僕の記憶の中の愛
正直1ミリも思い出したくない過去だ。
けれど思い出さない日はなかった過去でもある。
むしろ納得いかなかった離婚だったから、今でも彼女のことは忘れられてはいない。

蓮は彼女に見つからないように身を隠した。
たった一年だけど、少し痩せたように見えた。
少し周りを見渡した後、彼女はまたしゃがみ込み探し続けている。
何をそんなに探しているんだ?
彼女が探しているものがとても気になった。
あっそっか、彼女は目が悪かった。
コンタクト落としたんだ。
だとしたらこんな雨の中で見つかるわけがない。
僕は彼女に駆け寄り、その行動を静止させようとした。
物陰から一歩足を踏み出した瞬間、彼女の視線の先に何かあると気付いた。
同時に、彼女も視線の先にそれを見つけた。
彼女は這いつくばったままそれに近づいた。
そして満面の笑みを浮かべ、それを拾い上げると愛おしそうに頬に寄せた。
こんな雨の中なのに、涙が見えたような気がした。
僕はそれが心底気になり、気づいたら足が彼女の元へと動き出していた。
僕と彼女の距離は20メートルもないほどだった。
動き出した足はすぐに駆け足になり、彼女に傘を差し出した。
途端に、自分の体が急速に濡れていった。
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