君の記憶の中の僕、   僕の記憶の中の愛
自分にかかる雨がなくなり彼女は視線を上に上げた。
そしてゆっくり差し出した傘を辿り僕を見た。
「あっ久しぶり。。お前、こんな雨の中何してる?風邪引くぞ。」
そして僕の顔を確認すると、彼女の顔はすぐに曇った。
そしてすぐ立ち上がり立ち去ろうとしたので、僕は思わず、彼女の腕を引いた。
その腕を 僕に一瞥もくれず勢いよく振り払った。
その反動で、彼女の手に握られていたものが、手から離れ飛んでいった。
彼女が小さく「あっ、、」と言った。
久しぶりに聞く小さな声に僕の心は少しざわめいた。
僕のせいだと思ったから持っていた傘を少し強引に彼女に渡すと急いでそれを拾いに行った。
周りを見渡すとそれはすぐに見つかった。
なぜならそれは結婚し、初めて買ったお揃いのキーホルダーだったからだ。
なぜ?なぜ彼女がこれを持っているのか僕には理解できなかった。
別れを切り出したのは彼女だ。
その理由も、もう一緒に暮らしたくないと言う理由だった。
どういうことだ と理由を尋ねても好きじゃなくなったからと言われた。
そんな彼女がなぜ僕とのお揃いのものをいまだに持っている?
僕には彼女の真意がわからず立ち尽くしていた。

ヒールの足音が近づいてくる。
彼女は少し息を切らして、僕の前に立った。
そして無言のまま傘をさしだした。
ゆっくりとその傘を受け取ると右手に握られているキーホルダーを渡すように手を広げ、僕に差し出した。
「あの。。これは?」
その続きを聞こうとする僕の言葉を遮るように、彼女は、手のひらからキーホルダーが付いた鍵を奪って走っていく。
あまりにもの出来事に僕はぼう然とするしかなく、ただそこに傘をさすことも出来ないで濡れていく僕だけがいた
彼女のヒールの足音も、華奢で小さな背中も僕からどんどん離れて、暗闇に消えていった。
「なんなんだよ、、ハル。」
ため息混じりの僕の声は雨にかき消された。

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