1分後、君に溺れる
9話 1分後、君に心抱かれる
〇 海
呆然としているつばめ。
× × ×
〇 (フラッシュ)
理輝「つばめのことが好きだ」
× × ×
つばめ「……!」
つばめをじっと見つめる理輝。
つばめ「どうして……」
理輝「ごめん、もう我慢できなかった。好きだ、つばめのことが」
つばめ「……」
理輝「力とかどうでもいい。悩んでるつばめを、放っておけない」
つばめ「……」
理輝「もう一人で悩ませたくない」
つばめ「……そんな……」
理輝「好きだ」
つばめ「……」
理輝「一緒に悩んで、一緒に考えればいい」
つばめ、その場にへたりこむ。
理輝「つばめ⁉」
慌てて駆け寄る理輝。
つばめ「困る……」
理輝「……?」
つばめ「そんなこと言われたら困る」
理輝「つばめ……」
つばめ「無理だってわかってるでしょ? 触れられないんだよ? 気持ちだけでどうこうできる問題じゃないんだよ?」
理輝「わかってる、だけど」
つばめ「こんなの未来なんてないし、意味がない!」
理輝「意味ないとか言うなよ。俺の気持ちは」
つばめ「だって、」
理輝「好きだ。どうなったって。触れられないからどうとか、思わないわけじゃねえけど、でも、そういうの考えられないくらい、今、目の前にいるお前が好き」
つばめ「……」
理輝「この気持ちもお前の力も、両方どうにかしたい。根拠なんかねえけど、どうにかできる気がすんだよ、好きだから!」
つばめ、動けない。
理輝「一緒に考えたい、力のことも、全部」
つばめ「……」
つばめ、立ち上がると、一人で歩き出す。
理輝「つばめ⁉」
つばめ「ついてこないで!」
理輝「……!」
つばめ「ごめん……今は……一人になりたい」
理輝「……」
去っていくつばめを、見つめることしかできない理輝。
〇 東高校・外観(日変わり)
〇 同・1年A組
お弁当を手に持ったまま、ぼーっと外を見ているつばめ。
未央、それを心配そうに見ている。
未央「つばめちゃん? 大丈夫?」
つばめ「……」
未央「つばめちゃん!」
未央、つばめの耳元で大声を出す。
つばめ「! びっくりした……」
未央「何度も呼んだよ?」
つばめ「ごめん、ちょっと考え事してて」
未央「見たらわかるけど……どうしたの、一体」
つばめ「……」
未央、ふっと目をそらして。
未央「昨日から、理輝も同じ状態」
つばめ「え?」
未央「今日も学校来てから、ずっと屋上でサボってるし」
つばめ、誰もいない理輝の席を見つめる。
未央「つばめちゃん、心当たりあるんでしょ」
つばめ「……」
未央「私には、理輝が何を考えてるのか、わからない。それで気付いたの。家や店での理輝しか知らないんだって」
つばめ「……」
未央「私の中の理輝は、“幼なじみの男の子”のままなんだよ」
つばめ「未央ちゃん……」
未央「いくら過去を知ってても、今を知らないと意味がないの。今を知ってるのはきっと、つばめちゃんなんだよ」
つばめ「……」
未央「同じ未来を見れるのも、私じゃない。1年後の未来も、10秒先の未来も。一緒につくっていくのは、たぶん(と、つばめを指さす)」
つばめ「未来をつくる……?」
未央「一緒にいるって、そういうことでしょ?」
つばめ「……」
未央「好きな者同士だけが、一緒にいる未来をつくれるんだよ」
つばめ「未央ちゃん……」
未央「だからもー、何があったか知らないけど、素直になって。つばめちゃんがちゃんと動いてくれないと、私も今の中途半端なまま動けないから。ね?」
つばめ「……」
つばめ、立ち上がると。
つばめ「……ありがとう、未央ちゃん」
未央、それを見ながら、せつない表情で微笑む。
○ 同・屋上
柵にもたれ、ぼうっと空を見上げている理輝。
× × ×
○ (フラッシュ)
つばめ「無理だってわかってるでしょ? 触れられないんだよ? 気持ちだけでどうこうできる問題じゃないんだよ?」
つばめ「こんなの未来なんてないし、意味がない!」
× × ×
理輝(……気持ちだけじゃ、乗り越えられないものがある)
(それはわかってるつもりだったけど)
(それって、つばめが言うほど大きいことなのか?)
そこへ、つばめがやってくる。
理輝「(気付いて)……つばめ」
つばめ「昨日は、ごめん」
理輝「……俺のほうこそ、悪かった。自分の言いたいことだけ言って」
つばめ「……」
つばめ、言葉が出てこない。
理輝「……髪」
つばめ「え?」
理輝「髪、いい感じじゃん」
つばめ「あ、うん。おかげで」
理輝「ま、切った美容師がうまいんだろ」
つばめ「自分で言う?」
理輝「言う。自信あるから」
つばめ「何それ」
つばめ、おもわず笑う。
理輝「大事なことは、口に出してかなきゃダメなんだとよ」
つばめ「……?」
理輝「察してもらえるのが一番いいけど。心の中が見えるわけじゃねえし、誤解されんのは絶対に嫌だからな」
つばめ「……」
理輝「だから、大事なことは口に出すって決めて。昨日も、言った」
つばめ「“大事なこと”……」
理輝「……ああ」
理輝、つばめの髪に触れる。
理輝「俺が大事なのは、夢と、つばめ」
つばめ「……」
理輝「触れられないってやっぱデカいし、しんどいんだろうなって思う。でもよく考えたらつばめはこれまで、ずっとそうやって生きてきたんだよな」
理輝、触れそうで触れないくらいの近距離で、つばめの髪を撫で続ける。
理輝「そう思ったら、俺がつばめに触れられないのなんて、たいしたことなくね?って気もしてさ」
つばめ「たいしたことない?」
理輝「いや、違う、たいしたことはあるんだよ。こうしててもやっぱ触りてえって思うし、手も繋ぎたいし、好きだから色々思うこともあるし」
つばめ、おもわず赤面する。
理輝「でも。カラダに触れられないからって、心にも触れられなくなんのは嫌なんだよ」
つばめ「え……?」
理輝「つばめってさ、カラダだけじゃなくて心もいつも人と距離置いてて。こんなにいい奴なのに、それがなんつーか、もったいなくて仕方なくて。可愛い奴なんだぜってのを、みんなに知ってほしい」
つばめ「か……」
理輝「俺がつばめを、そこから引っ張り出したい」
つばめ「……」
理輝「腕ずくでも、力のせいで俺の恥ずかしい部分全部バレても、これから一生つばめのカラダに触れられなくても。お前の心を俺の近くに引き寄せたい」
つばめ「理輝……」
理輝「つばめの心の一番近くにいきたい」
つばめ「……そんなこと言っても、しんどくなるのは理輝だよ」
理輝「かもしれないけど、俺はつばめのことを考えてる。つばめは俺のことを考えてる。だったら先のことばっか考えてないで、とりあえずやればいいんじゃん?」
つばめ「……“未来をつくる”……」
理輝「そ、そういうイメージ」
つばめ、おもわず涙がこぼれる。
理輝「あ、ごめん、泣かせたいわけじゃなくて。俺、その」
つばめ「馬鹿!」
理輝「え」
つばめ「馬鹿じゃないの、ほんと」
理輝「は? 何だよそれ、俺は本気で」
つばめ、理輝の胸元に顔を寄せると、シャツにキスをする。
つばめ「引き寄せて。もっと」
理輝「え……」
つばめ「カラダが触れられない分、理輝の心、抱きしめたい」
理輝「つばめ……」
つばめ「理輝のことが、好き」
つばめ、理輝のシャツにどんどんキスを落としていく。
つばめ「好き。好きなの。大好き」
理輝「……俺も。俺も、好き」
理輝、つばめの髪にキスをする。
理輝「触れられなくてもいいやって思えるほど、好き」
理輝、屋上の柵と自分の両手でつばめを囲い込む。
つばめ「……触れられなくてもいい?」
理輝「触れられなくても良くない?」
つばめ「触れられなくても良くなくもない」
理輝「触れられなくて良くなくなくない?」
つばめ「も、意味わかんない!」
笑い出したつばめを、じっと見つめる理輝。
理輝「いいんだよ、わかんなくて。触れられるかどうかなんて、そんな大事じゃない。それよりも」
恥ずかしさで、つばめはおもわず顔をそむける。
理輝「ダメ。こっち見て」
つばめ「……」
つばめ、そっと目線を戻す。
理輝「カラダに触れられない分、目で抱きたい」
そう言いながら、どんどん顔を近付けて行く理輝。
つばめ「ちょ……やっ、近い、近いって!」
そう言いながらも、触れられず押しのけられないつばめ。
理輝「引き寄せてって言ったの、そっち」
つばめ「そういう意味じゃ……っ」
理輝、つばめ耳元の髪に、リップ音を鳴らしてキスをする。
つばめ「!」
頬、目、首、顔回りすべての場所に近づき、ちゅ、ちゅ…と音を響かせ、エアキス。
そのたびにまっすぐな目でつばめを見つめる。
右目も、右耳も、左頬も、左の首も。
すべての部分にキスするかのように、リップ音で触れていく。
つばめ「……!」
今にも倒れそうなつばめ。
理輝、その表情を見ながら。
理輝「てか、つばめが誰にも触れられない体質で良かったかも」
つばめ「……え?」
理輝「こんな可愛いつばめを独占できるの、俺だけってことじゃん」
そして最後に、唇に触れそうな位置で、リップ音を鳴らす。
つばめ「……!」
つばめ、おもわずその場に倒れ込む。
理輝「つばめ⁉」
つばめ「……も、無理……」
理輝「え、俺どっか触れた⁉」
涙目になって理輝をにらむつばめ。
つばめ「触れなきゃいいってもんでもないでしょ…!」
理輝「悪ぃ……やりすぎた……」
つばめ「……もー……」
理輝「でも、何ができて何ができないか、少しわかったかも」
つばめ「へっ⁉」
理輝「やべ、えろ……」
理輝、ひとりで顔を赤くして口をおさえている。
つばめ「ちょっと! 何考えてんの⁉ ねえ!」
ははっと笑う理輝。
その様子を見ながら、ふっとほほ笑むつばめ。
つばめ(幸せ)
(見えない未来を、一緒に……)