1分後、君に溺れる
13話 1分後、君と抱き合う
〇 龍崎家・座敷(夜)
集まった人たちが大騒ぎしている。
親族A「龍崎に、別の血が入る」
親族B「希少な力を、あんなわけのわからない奴に」
親族C「あいつは必ず力を悪用する。つばめは騙されてるんだ」
騒いでいる親族を、冷めた目で見ている恭哉。
ただ頭を下げている千鶴と隼人。
鷹一、ぎろりと恭哉をにらむと、
鷹一「お前……わかってるんだろうな」
恭哉「何がですか?」
鷹一「自分のしたことの大きさ、覆水盆に返らず、だ! お前が一時の感情でしたことが、この家を壊すかもしれぬのだぞ!」
恭哉、大きくため息をついて。
恭哉「壊れてしまえばいーんですよ」
鷹一「何⁉」
恭哉「だって、そうでしょう。自分の望む人と恋愛できず、自分の望む職業にも就けず。日常生活でも負担ばかりで。人の役に立つっていうのを言い訳にして、ただ縛られて生きてるだけじゃないっすか」
千鶴が心配そうに恭哉を見つめている。
恭哉「総代だって、ここにいる人たちだって。みんな、悔しい思い、いっぱいしてきたでしょ。つばめを許せないのって、『自分は我慢したのに何であいつは』みたいな感じなんじゃないですか」
鷹一「……龍崎家を侮辱するようなことを言うな!」
恭哉「先に侮辱することを言ったのはそっちだろ!」
鷹一、おもわず口を閉じる。
恭哉「総代だって俺だって、ここにいる人みんな、個人じゃ何の力も持たねえくせに、龍崎家の力にすがりやがって。そもそもが運よくもらった力じゃねえか。それを自分の手柄のように思ってんのが間違いなんだよ!」
部屋がシーンとし、集まった人たちが無意識に下を向く。
恭哉「勝手なことしたのは謝りますけど。俺は間違ってるとは思いません。生きる世界が違うとか、何言ってんだよって感じ。速くアプデしたほうがいいと思いますよ、カッコ悪い」
シーンと黙り込んだ部屋。
鷹一も言葉が出てこない。
恭哉「……」
恭哉、部屋を出て行く。
〇 海(夜)
キスをしているつばめと理輝。
なかなか離れられない。
理輝「ずっと、こうしたかった」
つばめ、うなずく。
理輝「もう、離したくない」
理輝、つばめの頬や首にもキスをしていく。
が、キスが進むにつれて。
つばめ「⁉」
白い光が揺れる。
理輝「……? どうかした?」
つばめ「今……見えた、未来が」
理輝「え……俺も力があるのに……?」
つばめ「力がある者同士は、触れても見えないはず。さっきまでは理輝に触れても見えなかった。でも今、なんか」
理輝、すっとつばめに触れる。
また、光が揺れる。
つばめ「ダメ。また見える」
理輝「……?」
つばめ「どうして、突然……?」
理輝「さっきと今の違い……何だ……?」
考える理輝。
理輝「もしかして……俺が力のことを考えなかったから……?」
理輝、一度すっと目を閉じて、
理輝「つばめ、触れていい?」
つばめ「う、うん」
つばめの手にそっと触れる理輝。
理輝「……どう?」
つばめ「何も起こらない。見えないよ」
理輝、もう一度目を閉じて。深呼吸して、そっとつばめの手に触れる。光が揺れる。
つばめ「あ、見えた」
理輝「……やっぱり、そうか……」
つばめ、首をかしげる。
理輝「たぶんだけど。俺がこの力を意識したら、力が発動する。でも俺がこのことを考えなければ、力はなくなる。そういうことかも」
つばめ「えー⁉ そんな都合のいいこと、ある⁉」
理輝「わかんねえよ。でも今、思いつくこととしたらそれしかねえもん」
つばめ「……確かに……」
理輝、つばめにすっとキスをする。
つばめ「ちょっと、まだ話は終わってな……」
理輝、連続してつばめにキス。
つばめ「ちょ、ちょっと、待っ……」
何回目かのキスで、ふと光が揺れる。
× × ×
〇 (インサート)
つばめを抱きしめ、浜辺で床ドン状態になっている理輝。
理輝「好き。もう絶対離れない」
× × ×
つばめ、驚いて理輝から離れる。
理輝「あ、見えた?」
つばめ「う、うん、あの……」
理輝「俺がやろうとしてたこと、わかっちゃった?」
理輝、つばめを抱きしめようとする。
ゆるくその手を拒否するつばめ。
つばめ(されること分かってて、身を任せたりできない……!)
理輝、つばめの顔が真っ赤になるのを面白がって見ながら、
理輝「つばめ。力抜いて。早くこっち来て」
と、つばめを抱き寄せる。
つばめ「ちょ、ちょっと理輝」
理輝、つばめの耳元で、ささやく。
理輝「今からされること分かってるのってどんな気分?」
つばめ「……!」
つばめ、おもいきり理輝の体を押し返す。
反動で理輝がその場に倒れる。
理輝「痛ぇ……」
つばめ「変なことするからでしょ⁉」
理輝「あーもう、未来変わっちゃったじゃん」
つばめ「大袈裟に言わないで! ていうか力! 悪用しないで!」
理輝「悪用ってほどじゃないし。ただどうなるのかなって試しただけで」
つばめ「私の前では力、絶対にオフにしないで! ずっと力のこと考えてて!」
理輝「いや、無理っしょ。だってつばめにキスしてるとほかのこと考えらんなくなるもん」
つばめ「駄目! 私に集中しないで!」
理輝「は⁉ んなの無理だし!」
つばめ「無理でもするの!」
理輝「何だよそれー! ある意味これまで以上に酷なんですけど⁉」
つばめ「知らない! 馬鹿!」
× × ×
浜辺で寝ころび、手をつないで星を見ているつばめと理輝。
つばめ「綺麗」
理輝「うん」
つばめ「こんなこと、できるなんて思わなかった」
理輝「それは、いい意味で?」
つばめ「うーん、両方かな?」
理輝「両方?」
つばめ「幸せだな、っていう気持ちと、まさか私が人前でこんな恥ずかしいことしてるとは、っていう気持ち」
理輝「……暗くて誰も見てねえよ」
つばめ「いや、そうなんだけどね」
理輝、ごろんと顔をつばめの方に近づけると、
理輝「つばめ、俺、やっぱり美容師目指したい」
つばめ「!」
理輝「昨日、恭哉から今日の儀式のこと聞いて。止めるには俺がこの体質になるしかねえって言われて。もちろん即答で止めに行くって答えたし、つばめと夢を天秤にかけることさえしなかった。自分の夢とか、マジで思い浮かばなかった。でも」
つばめ、理輝の手を両手でぎゅっと握る。
理輝「俺がこの力のことを考えない限り、力が発動しないなら、。髪を切ることだけに集中すれば、美容師にもなれんじゃねえかって」
つばめ「……うん、なれるよ」
理輝「応援してくれる?」
つばめ「もちろん!」
理輝「……ありがと」
理輝、つばめを抱き寄せる。
つばめも全力で理輝を抱きしめる。
理輝「あとは……総代の説得、か」
つばめ「……」