1分後、君に溺れる

4話 1分後、君を想う


〇 東高校・廊下(朝)
   つばめに抱きついている恭哉。
理輝「触れてんのに、何も起こらない……?」
   恭哉がその言葉を聞き、怪訝そうに。
恭哉「ねえつばめ、これ誰?」
理輝「は? 俺が聞きたいわ」
つばめ「あ、あの、これはちょっと、違って」
恭哉「どゆこと?」
つばめ「(理輝に)実はこの人も同じ力があって。だから触れても何もなんないっていうか」
理輝「同じ力?」
つばめ「親戚なの、私たち」
恭哉「ってかこいつ、何でこの力のこと知ってんの?」
つばめ「その前に、恭哉はまず私から離れて!」
   恭哉、しぶしぶつばめから手を離す。
恭哉「もしかしてつばめ、力のことばらしちゃったの?」
つばめ「ばらすっていうか……これにはいろいろとワケが……」
恭哉「このこと、龍崎の総代は?」
つばめ「……(黙り込む)」
恭哉「ふーん……」
   恭哉、理輝のことを見て。
恭哉「お前、つばめが好きなの?」
つばめ「……は⁉」
恭哉「違うの? じゃあ、まさかつばめがこいつのこと好きなわけ⁉」
つばめ「馬鹿なこと言わないで! ていうか何でそんな話になってんの!」
恭哉「だってー、この力のことを言うきっかけなんで、恋愛がらみ以外ないじゃんって思って」
つばめ「……みんながみんな、あんたみたいに恋愛のことばっか考えてないから!」
恭哉「ふーん?」
   恭哉、理輝をじろじろと見ながら、つばめの肩に自分の腕を巻き付ける。
   すうっと、光が揺れる。
つばめ「ちょっと、離れてってば!」
恭哉「充電してんの。俺、力弱いからー、定期的につばめで充電しないといけないのよ」
つばめ「だからって学校で……」
理輝「……」
   その様子を見ていた理輝、きびすを返して、教室に向かう。
つばめ「……理輝! あの!」
理輝「何」
つばめ「あの、……ごめん」
理輝「何が」
つばめ「え……」
理輝「何か謝るようなことしたの。もしくは、俺が今、謝ってもらわなくちゃいけないような気分だと思ってるわけ」
つばめ「そういうんじゃないけど」
理輝「……」
   無視して歩いていく理輝。
つばめ「……」
   理輝の背中を見ながら。
つばめ(引き止めたい)
   (けど)
   (こういうとき……私は腕をつかんで引き留めることもできないんだ……)

〇 同・1年A組
   憂鬱そうな表情で席についているつばめ。
   教壇には恭哉が立っている。
恭哉「高校初日から早速休んじゃったんですけど、同じ1年の龍崎恭哉です。つばめの親戚なんで、つばめの隣の席にしてもらえると嬉しいです!」
つばめ「……」
   嫌そうな顔をしているつばめ。
   女子たちがざわついているのを感じる。
担任「では龍崎恭哉の席は……ま、あいてるし、龍崎つばめの隣にしとくか」
恭哉「っしゃー! ありがとうございます! みんなよろしく~」
   恭哉、つばめの隣の席に座る。
つばめ「……どういうつもり」
恭哉「何がー?」
つばめ「私、何も聞いてないんだけど」
恭哉「ま、それはおいおい、ね」
つばめ「……⁉」
   心配そうな顔でつばめを見ている未央。
   理輝は不機嫌そうな顔で窓の外をながめている。

〇 道(夕)
   海沿いの道を、憂鬱そうに歩いているつばめ。
つばめ(あーもう、疲れた)
   (あのあと……)

   ×  ×  ×
○ (回想)教室
   うんざりした表情で座るつばめの横の席で、キャピキャピとした女子たちに囲まれる恭哉。
生徒A「ねえ、恭哉くんは彼女いるの?」
恭哉「いないよ。あ、でも大事な人はいるかな」
生徒B「大事な人?」
恭哉「うん。つばめ」
つばめ「は⁉」
   つばめ、おもわず振り向く。
恭哉「(つばめに向かって)つばめは、すごく大事な存在」
生徒C「何で……こんな目つきも愛想も悪い……」
つばめ「……悪かったわね」
生徒A「まさか……付き合ってるの?」
恭哉「付き合うとか付き合わないとか、そういう軽いもんじゃなくて……なんていうか、つばめとはもう、運命共同体みたいな?」
   女子たちの叫び声が聞こえる。
つばめ「誤解されるような言い方しないで!」
恭哉「だからつばめのこと、大事にしてよね」
   女子たちが一斉につばめを睨みつける。
                       (回想終わり)
   ×  ×  ×

つばめ(理輝にも、誤解されてるのかな……)
   溺れかけた浜辺を見ながら。
つばめ(誤解されることなんて慣れてるはずなのに)
つばめ「……なんか……やだ」
   ぼうっと海を眺めていると、前から急ぎ足で歩く老婆が通りかかる。
   ふと、すれ違いざまに手が触れてしまう。
   その瞬間、光が揺れて。

   ×  ×  ×
〇 (インサート)つばめの脳内
   老婆がかばんから封筒を出し、若者に渡している。
   若者が封筒を開け、中身を確認している。
   中身は札束。
   ×  ×  ×

つばめ「!」
   慌てて振り返ると、老婆の横に車が止まり、中から若者が出てくる。
つばめ(……まさか、詐欺……⁉)
   つばめ、バッグにつけたストップウォッチを押し、慌てて老婆のところに行く。
つばめ「おばあちゃん!」
   バッグから封筒を出しかけていた老婆の動きが、止まる。
老婆「は?」
つばめ「おばあちゃん、何してるんですか?」
老婆「はあ……?」
つばめ「その封筒、何ですか? この人は、誰?」
老婆「この人は……その、息子の会社の人で……」
   若者が舌打ちして、
若者「ばばあ。いいからその封筒、渡せ。息子がどうなってもいいのか」
老婆「ひっ」
   慌てて封筒を渡そうとする。
   つばめ、その封筒を横から取る。
若者「何すんだお前!」
つばめ「本当に息子さんの会社の人だっていう証拠を見せてください」
   つばめが物凄い勢いでにらみつける。
   若者、一瞬たじろぐも、
若者「お、お前には関係ねえだろ!」
つばめ「もしかして、特殊詐欺とかじゃないですか⁉」
   老婆が驚き、
老婆「さ、詐欺⁉」
つばめ「おばあちゃん、本当に息子さんからの電話でしたか⁉ 声とか喋り方とか、何か変なとこはありませんでしたか⁉」
老婆「……そう言われると、自信が……」
若者「お前いいかげんにしろ! 金を渡せ!」
つばめ「もし本当に息子さんの会社の方なら、警察の前でそれを証明してからお金を受け取ってください!」
若者「……この野郎……!」
   若者、つばめに向かって手を上げる。
つばめ「……!」
   つばめは動けず、目を閉じる。
   が、痛みは襲ってこない。
   おそるおそる目を開けると。
つばめ「理輝……⁉」
   若者の腕を、理輝の手が、ひねりあげていた。
理輝「女に手ぇ上げてんじゃねえよ」
若者「……畜生、放せ!」
   理輝、無視して腕をさらにひねる。
若者「いててててて! やめろ、悪かった!」
   理輝が手を離すと、若者が慌てて車に乗る。
   そのまま、その場から走り去る車。
つばめ「……」
理輝「大丈夫か」
つばめ「う、うん。あ、そうだおばあちゃん!」
   つばめ、慌てて老婆を見ると、驚いたようにぽかーんとしている。
つばめ「おばあちゃん大丈夫? やっぱり詐欺だったみたい」
老婆「ありがとう、ありがとうございます。本当に助かりました!」
   つばめに向かって頭を下げている。
つばめ「気にしないで。それより、すぐ警察署に行って。もう絶対、騙されちゃだめだよ」
老婆「そうだね、ありがとう。本当にありがとう」
   老婆、何度もつばめに向かって礼をして、去っていく。
   その場に取り残される、つばめと理輝。
   つばめ、理輝を横目で見て。
つばめ「……あの、どうもありがとう、助けてくれて」
理輝「別に。お前を助けたわけじゃねえ」
つばめ「……でも、ありがと」
理輝「あいつは?」
つばめ「あいつ?」
理輝「親戚の」
つばめ「恭哉?」
理輝「……」
つばめ「女子たちと一緒に帰るって」
理輝「ふーん。いいの」
つばめ「いいのって?」
理輝「付き合ってんだろ」
つばめ「は⁉ 私と恭哉が⁉」
理輝「……違うの」
つばめ「そんなわけないでしょ。何であいつと」
理輝「でもあっちはそういう感じっぽく見えたけど」
つばめ「違う違う、あいつ昔から、いつも、誰にでもああなの。この力も、女の子の気持ちを知るために悪用したりしてて」
理輝「抱きついてるのは」
つばめ「それは……あいつは力が強くないから、私みたいな、結構力があるタイプの人間で充電しなくちゃいけなくて」
理輝「……」
つばめ「だからその、そういうのとかじゃ、全然」
理輝「ふうん」
   理輝、そう言うと前に向かってゆっくり歩き出す。
つばめ(誤解、解けた?)
   理輝の背中を見ながら、胸が熱くなるつばめ。
つばめ(ちゃんと、解いてくれた)
つばめ「……ありがと」
理輝「何が?」
つばめ「聞いてくれて」
理輝「何だそれ」
つばめ(今、わかった)
   つばめ、ほっとしたような顔で理輝の少し後ろを歩く。
つばめ「……分かってもらえるって、嬉しいんだなって」
理輝「……」
   理輝、少し振り返って
理輝「こっち」
つばめ「え?」
   理輝、自分の横を指さす。
理輝「こっち来て」
つばめ「……え」
理輝「後ろに居られたら、何かあったら助けらんない」
つばめ「……」
理輝「あと、これも」
   理輝、つばめのジャケットの袖を指でつまみ、自分のバッグのところに持ってくる。
理輝「離すなよ」
つばめ(……!)
   つばめ、理輝の指を凝視して。
   そのあと、おそるおそる理輝のバッグをつかむ。
つばめ「……お邪魔します……?」
理輝「何だよそれ」
   と、笑う。
   おかしくなって、つばめも笑う。
つばめ(誰かと横並びで歩くなんて、初めてだ)
   (しかも、速さも)
   つばめ、理輝の足元をちらりと見る。
つばめ(合わせてくれてる)
   つばめ、おもわず頬がゆるむ。
   ほわっとした雰囲気で、ふたり並んで歩き続ける。

〇 美容室(夕)
   歩いていると、美容室が見えてくる。
   理輝が店内を見て
理輝「あ、今お客さんいないかも」
つばめ「そうなんだ」
理輝「髪、今日切ってく?」
つばめ「え」
理輝「たぶん、いけそうだけど」
つばめ「でも順番が」
理輝「いいって。こういうのはタイミングだから」
   つばめが言うのを無視して、美容室のドアを開ける。
   すると、一目散に中型犬がとびかかってくる。
つばめ「わっ」
理輝「こら、まろ。やめろ」
つばめ「まろ?」
理輝「こいつ。お客さんにも宅配便の人にも、みんなに飛びつくから、番犬になんねえの」
つばめ「何それ、可愛い」
   つばめ、そう言ってまろを撫でていると。
   店の奥の、家の中から「まろ!」と声がする。
つばめ「え……?」
   つばめ、声がしたほうをみると。
奥に、未央が立っているのが見える。
未央「あ」
理輝「未央」
つばめ(え……?)
   理輝がつばめから離れ、未央の元へ行く。
つばめ(今、“未央”って……)
   未央と何か話している理輝。
   距離感が、やけに近い。
つばめ(この2人……)
   未央が店のバックヤードを指さす。
   何気なくつばめも見ると、そこには食事が準備されていて。
未央「じゃ、夕飯、先食べとくね」
   つばめ、声が出ない。
つばめ(どういう関係……⁉)


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