1分後、君に溺れる

6話 1分後、君がつらい


〇 龍崎家・外観

〇 同・玄関~つばめの部屋
   恭哉が合いカギを使って家に入り。
恭哉「こんちわー。おばちゃん仕事―? つばめいないのー?」
   シーンとする室内。
恭哉「つまんね」
   恭哉、部屋に入る。
   廊下を通り、つばめの部屋へ。
恭哉「つばめー? 入るぞー。ま、いないんだろうけど」
   そう言って部屋を開ける。
恭哉「……」
   さっきまで人が居たような気配。
   ハンガーにかかったジャケットを見る。
恭哉「近くにいる……?」
   恭哉、少し考え込み、
恭哉「あ、そうだ」

〇 龍崎家・外~道
   外に出てくる恭哉。
   少し歩くと、前から老婆が歩いてくるのが見える。
恭哉、老婆に
恭哉「こんにちは」
   と、声をかけて、さりげなく腕を触る。
   光が揺れて。

   ×  ×  ×
〇 (インサート)恭哉の脳内
   老婆がバス停に並んでいる。
   ×  ×  ×

恭哉「いないなあ」
   恭哉、そのまま歩いて行く。
   ふと、散歩中の犬を見つけ。
恭哉「触らせてもらってもいいですか?」
   飼い主がうなずくと、恭哉、犬に触れる。
   光が揺れて。

   ×  ×  ×
(インサート)恭哉の脳内
   別の犬とじゃれあっている様子。
   ×  ×  ×

恭哉「お前恋人いんのかー? いいなー!」
   頭をわしゃわしゃと撫で、飼い主に会釈して歩いて行く。
   ふと背後から子どもが乗った自転車が近づく。
   すれ違いざまに子どもの背中に触れる。
   光が揺れて。

   ×  ×  ×
〇 (インサート)恭哉の脳内
   公園。
   ベンチで床ドン状態の理輝とつばめ。
   ×  ×  ×

恭哉「わーお」
   恭哉、大袈裟に驚く。
恭哉「いたいけな小学生に、こんな刺激の強いとこ見せちゃダメじゃんねえ?」
   自転車の後ろを小走りで追いかけていく恭哉。

〇 公園
   理輝に床ドンされた状態のつばめ。
   理輝に髪を触れられ、視線を理輝にやる。
   目が合う2人。
理輝「あのさ、俺……」
   その途端、自転車のブレーキ音とともに
恭哉「はーい、公然わいさつー」
   驚いてバッと体を上げる理輝。
つばめ「恭哉……」
恭哉「こんなとこで何やってるわけ? え、まさかうちのつばめちゃんに触れたりしてないよね?」
理輝「……触れてない」
恭哉「どーだか」
   ふん、とつばめの横に座る恭哉。
恭哉「つばめちゃんに触れたらどうなるか、わかってんでしょ?」
理輝「……」
恭哉「お前ごときが触れていい子じゃないんだよ」
   恭哉、つばめの肩を後ろからぎゅっとハグする。
   すうっと、光が揺れる。
つばめ「恭哉!」
恭哉「んー、充電。いいでしょ」
つばめ「やめてよこんなとこで!」
恭哉「こんなとこでおっぱじめようとしてたのは誰?」
つばめ「っ……!」
恭哉「だって俺、充電したくて家に行ったのにさ。居ない方が悪いじゃん」
   と、恭哉、ぐっとつばめをきつく抱きしめる。
つばめ「いやっ……」
   理輝、反射的に恭哉の腕をつかむ。
   光が揺れる。
恭哉「あ、触っちゃった」
理輝「……嫌がってる奴に何してんだよ」
恭哉「ふーん」
   意味ありげに理輝を見つめる恭哉。
理輝「何だよ」
恭哉「ふむふむ、俺とつばめは1分後、そういう感じになってるわけね」
理輝「は⁉」
   つばめが慌てて、
つばめ「恭哉!」
恭哉「え? こいつ知ってんでしょ?」
つばめ「具体的な力については知らない」
恭哉「へえーーー」
   恭哉、じろじろと理輝を見つめる。
恭哉「お前、気にならないんだ、この力」
理輝「……口外すんのダメなんだろ」
恭哉「ふーん?」
   恭哉、理輝を挑発するように。
恭哉「どうすんの、触れたら心の声が聞こえる、とかだったら」
理輝「……」
恭哉「それから……自分の妄想が見えるとか。自分の隠してる秘密が知られるとか。いやらしい考え全部透けて見えるとか。そういうのだったら、嫌じゃない?」
つばめ「やめて! そんなんじゃないでしょ」
恭哉「そうだっけえ?」
理輝「……」
恭哉「じゃ、さ。仮にそういう力だったとしたら、あんた、つばめちゃんと一緒に居られる?」
理輝「え……」
恭哉「触らないって思ってても、何かのはずみで触れちゃったりするじゃん」
つばめ「……」
恭哉「そのたびに、見られたくないものが見られて、つばめは罪悪感で苦しんで。そういうの、耐えられる?」
理輝「……」
恭哉「それにさ。触れられない女の子と一緒に居たって……ねえ? いろいろしたくてもできないし?」
理輝「……」
恭哉「ほら、返事できねえじゃん」
理輝「できないわけじゃなくて、俺は」
恭哉「即答できない時点で、つばめのことをちゃんと理解できてねえんだよ」
   理輝、つばめのことを見る。
   ニヤニヤしている恭哉。
つばめ「……いいの」
理輝「……?」
つばめ「わかってるから、全部。自分が気味悪いだろうなってことも、相手に迷惑かけることも」
理輝「そういうんじゃ」
つばめ「だから初めから、誰かと仲良くなりたいとか、友達と遊びたいとか、彼氏が欲しいとか、そういうのなんて期待してなかった。ううん期待してない、今も。分かってるもん。全部」
理輝「……」
つばめ「この家に生まれたんだから。力を持って生きる覚悟をしなくちゃいけないから。ってか、そんなのもう、とっくにしてるから」
理輝「……つばめ」
つばめ「わかってるんだよ、全部」
   理輝、何か言いかけるが、言葉が出てこない。
理輝「……」
つばめ「迷惑かけてごめんね」
理輝「……違う、そういうんじゃなくて」
つばめ「帰る」
   そう言って、公園から出て行くつばめ。
理輝「待てよ!」
理輝、つばめの後を追いかけようとするが。
恭哉がその前に立ちふさがって。
恭哉「お前が行ったとこでどーなんの?」
理輝「……」
恭哉「わかっただろ? これ以上つばめのこと、傷つけないで」
   何も言えない理輝。
   その様子を見てにこりと笑うと、恭哉はつばめの後を追って走っていく。
   理輝は、その場から動けない。

〇 龍崎家・外観(夜)

〇 同・つばめの部屋(夜)
   クッションを抱き、頭をかかえているつばめ。
   恭哉がつまらなそうに見ている。
恭哉(ちょっと言い過ぎたかな)
   恭哉、つばめの横に座ると、優しく背中をさすり、
恭哉「ごめんね、つばめちゃん」
   つばめ、その手を嫌そうに払うと、
つばめ「やめて。どこか行って」
恭哉「それは無理。充電させてもらわないと、俺、力なくなっちゃう」
つばめ「……」
   つばめ、背中を向ける。
恭哉「えー背中ー? 俺できれば正面からぎゅーってしたいんだけど」
   無視するつばめ。
   恭哉、ため息をついて。
恭哉「悪かったよ」
つばめ「……」
恭哉「でもさ、どっかで言わなきゃいけないやつじゃん。普通の付き合いはできないんだぜ、俺たち」
つばめ「わかってるよ。恭哉の言ってること、間違ってない」
恭哉「じゃあ」
つばめ「わかってるけど……」
   つばめ、またクッションをかかえて。
つばめ(普通に、一緒に帰ったり、お休みの日に遊びに行ったり、寝落ち電話したり……)
つばめ「普通のことがしたいだけなのに」
恭哉「……」
つばめ「あたしたちは、全部あきらめなきゃいけない」
恭哉「……」
   恭哉、つばめの背中と自分の背中をくっつける。
すうっと、光が揺れて。
恭哉「……俺はずっとそばにいるけどね?」
つばめ「恭哉がいても意味ない」
恭哉「(笑って)ひでぇ」
   恭哉、つばめの頭を撫でて。
恭哉「大丈夫。大丈夫になるから。俺が、大丈夫にしてやるから」
つばめ「……」

〇 東高校・外観(朝)
   登校してくる生徒たち。

〇 同・1年A組
   ぼうっと教室に入るつばめ。
   席に付こうとすると、未央が声をかける。
未央「つばめちゃん……」
つばめ「……あ……未央ちゃん」
未央「昨日は驚かせてごめんね。あのあと、会えた?」
つばめ「え?」
未央「恭哉に」
つばめ「……未央ちゃんが言ってくれたの?」
未央「言ったってほどじゃないよ。ただ、誤解されたくない相手には、誤解は解いた方がいいんじゃない?って言っただけ」
つばめ「誤解……」
未央「え、もしかしてまだ解けてない⁉ 私と恭哉は何もないからね??」
つばめ「うん、それは……聞いた。聞いたけど」
   浮かない顔のつばめ。
未央「つばめちゃん? 何かあった?」
つばめ「……」
   つばめ、返事ができない。
   未央、その様子を見て。
未央「つばめちゃん、理輝のこと、好きなんだね」
つばめ「え……」
   未央、にこりとほほ笑む。
未央「わかるよ」
つばめ「……」
未央「あとで言うと誤解されそうだから、言っておくね」
つばめ「え?」
未央「私は……私も、たぶん好き。理輝のこと」
つばめ「え……」
未央「だけどこれが家族愛なのか恋愛なのか友情なのかは、全然わかんない」
つばめ「……」
未央「だからつばめちゃんに対してどうこう思うっていうのはないの」
つばめ「……」
未央「ただ……今、言っておかなくちゃって思ったの」
つばめ「……うん。わかった」
   未央、にこりとほほ笑む。
つばめ(私は……この気持ちは)
   教室に入ってきた理輝を見ながら。
つばめ(あきらめなくちゃいけない)
   (私の恋に幸せな結末なんてないんだから……)



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