あの道を、貴方と。

―刹那。

「誰だ?」

「・・・!」

首に冷たい金属の感覚。視線だけ後ろにやるとさっきまで徳川綱吉と話していた忍者と同じ気配。

(っ、話が終わったから屋根裏に戻ってきたんんだ・・・!何でこんな初歩的なミスしたのよ⁉︎)

「誰だ?答えろ」

彼は感情のない声でチャキ、と手裏剣をわたしの首にさらに近づける。

「っ、わたしは、千夜」

わたしが咄嗟に口に出た名前はわたしの小学校からの親友の名前。

本当なら松本家頭領が代々受け継ぐ「風雅」って名乗るのが正しいんだけど、こっちの世界での「風雅」さんがいたら、色々ややこしくなっちゃうし、だからって本名を晒すなんて危険なこともするわけない。

「・・・ここで何をしていた?」

(・・・これ?なんて答えるのが一番正しいの?正直に「あなたが忍者だと気づいて気になったのでついてきました」なんて言える雰囲気じゃないよ、これ)

わたしが考えている間にも彼のさっきは強くなっていく。

(う・・・ん。うん!なんかめんどくさくなってきたし逃げよう。そうしよう)

考えているうちに思い出しちゃった。そういえばわたし、何も悪いことしてないしこのまま逃げればなんとかなるんじゃない?って。

別に二人の作戦を誰かに漏らすわけでもないし。

(よし。そうと決まれば・・・)

わたしは彼に気づかれないようにそっと背中に手をまわす。袴の腰板からそっと手裏剣を取り出す。

(いくよ、五、四、三、二、一)

ゼロ。

瞬間、わたしは「あ!」っと叫んで手裏剣を持っていない方の手で適当な空を指差す。彼の意識は一瞬、わたしから外れる!

「はっ!」

わたしの首を絞めていた力が弱くなったのを見計らってグッと腰を落としてしゃがんで、その勢いで屋根裏の天井に飛び上がって手裏剣をブッ刺して落ちないようにする。

「くっ!」

勿論、相手さんも黙ったままなわけがない。相手も手甲から手裏剣を出してわたしに向かって正確に投げてくる。

(よっと)

咄嗟に体をひねったらさっきまでわたしの顔があったところに手裏剣が刺さってた。これ、当たったら死ぬわ。

わたしは咄嗟に手裏剣を引き抜いて空中で二、三回回転してから着地そのまま腰に下げてあった筒の蓋を開いて空中に撒く。

「待てっ・・・てゴホッ、ゲホッ・・・!」

わたしが撒いたのが何か気になる?正解は小麦粉!結構散布しやすいし、一回気管に入ったら咽せやすいし。

ちなみに、他にもタバスコとか、胡椒とかも常備してるんだ。今回は補充しやすそうだったから小麦粉にしたけど。

(よし、今のうちに・・・!)

走り出そうとした瞬間。

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