あの道を、貴方と。

「はい?」

思わず聞き返しちゃった。隣を見ると、彼も同じように呆然としている。あれは絶対口も空いてるね。頭巾のせいで見えないけど。

「だーかーらー君たちで奥州に行って、情報収集してこい、と言っている」

「つ、主人様本気で・・・?」

「此奴、気に入った。私に敵意があるわけではないし、どうせこの時代に来て右往左往しているんだろう?」

(この人、わたしの今の状況を的確に把握して・・・なら)

「わたしはいいですよ」

乗ってしまおう。せっかく就職のチャンス!逃すな、わたし!

「で、新はどうだ?」

「う、あ、」

「あなた、新と言ったっけ、主君の命も聞けないの?」

「は?そんなわけなかろう!綱吉様、その命、確かに承りました」

「よろしく頼むよ。それじゃあ、千夜ちゃんのために詳しい話をしよっか」

綱吉さんはわたしでもわかるノリノリ具合でどこからか取り出してきた地図を見せてきた。

「えっと、出発は明後日。ここ、江戸からね?その後千住、草加、春日部を通って室の八島にある大神神社にいく予定だよ。あ、そういえば千夜ちゃん、日光行こうと思ってたんだよね?それだったらちょっと寄り道して日光行く?うん。そうしよう」

もともと書いてあったルートをあっさり変える綱吉さんに流石のわたしでも顔が引き攣る。

(この人・・・軽い!ノリが、軽い・・・!)

そっと、新の方を見るとまたか、と言うような顔で書き換えられていく地図を見つめている。こんなことは当たり前っぽい。

「で、ここで仙台藩の情勢を見てくれると・・・」

わたしがそんなことを考えているうちにどんどん旅の行程が話されていく。奥の細道の日程とかは一回読んだことがあるからわかるけど、そこに忍者としてに仕事が入ると途端にややこしくなるね。これ。とにかく今はこれを覚えないと・・・!

「新潟まで来たら任務終了。ここから先は一回京都の方に行ってもいいし、信濃の方を通って江戸まで帰ってきてもいいよ。新が奥州に行っている間は涼が代わりに仕事やってくれるし・・・ってこれは話してたね」

「?そういえば、二人の連絡手段はなんなんですか?」

「あぁ、基本は手紙かな。伝令用の忍者がいるんだ。その人たちに送ってもらうつもりだよ」

「へぇ、ってか新って、伊賀者だったんだね」

「まぁ、な。でも・・・」

俺は、出来損ないだから、と悲しそうに俯く。

「なんで・・・?」

「俺、暗号系がめっきり苦手でな・・・」

「あ、そう言うこと」

それだけで大体の事情は理解できた。忍者は得た情報を正しく、安全に味方に渡さないといけない。敵に知られず、味方にだけに伝わる伝達方法。つまり暗号。忍者で暗号系が全くダメというのは、確かに致命的かも。

「俺は運動神経が良かったからじぃちゃんとか、父さんとかにはよくそれで十分、って言われてたけど、な」

その後、いろいろあって伊賀者から追放されかけた時どこからかその情報を聞きつけて拾ったのが四代将軍だった家綱さんだったそうで。

「それで、俺のせいで爪はじきになってた家族ごと雇ってくれたんだ」

そんな忍者事情は聞いたこともないし、家の資料にも載ってなかったような気がする。

(伊賀者が『出来損ない』だから存在を隠したから・・・?)

「じぃちゃんが、それにすごい恩を感じて『これから我々一族は将軍の手足となり働きましょう』って言ってそれが今でも続いているってこと」

「じゃあ、松尾芭蕉って・・・」

「そう。じぃちゃんが情報を集めたい時の隠れ蓑で作ったモンさ。元々じぃちゃんは句作が趣味で、あらかじめ句を大量に作っっておいてくれていたんだ」

それを新と新のお父さんは使って違和感のないようにしているんだって。何それ。新のおじいちゃん天才か?あんな大量の句を一人で、それも情景を見ずに作るって。

「で。話を戻すけど、結局暗号はどうしてるの?」

「先に二人で、こんな仕組みだ、って決めておいて、基本それで・・・」

「はぁ⁉︎それ、仕組みがわかれば一発でアウトじゃん⁉︎ヤバくない⁉︎」

「ちょ、千夜ちゃん、あうと?やばい?それってどういう・・・」

「とにかく危険だってこと‼︎もし奪われなかったとしても・・・」

忍者にとって任務失敗は最悪、死で償わないといけないレベルでヤバい。それなのにいつバレてもおかしくない暗号を長期間使い続けるなんて・・・

「・・・ちなみに、二人はどんな暗号を使ってたんですか?」

ふと気になって聞いてみる。もしかしたらその暗号はめちゃくちゃ難しいものかもしれなないし。そう信じたい。うん。

「えっとねぇ、ちょっと待ってて。今適当に作るから」

綱吉さんが文机にあった紙に少し考えてからさらさらと文字を書く。

「こんな感じ?」

「どれどれ・・・」

流れるような行書体で書かれて一瞬顔が引き攣っちゃう。でも修行中に習ったから少し苦戦しつつも文字を消化していく。今だけ崩字の解読が必須修行に入っていたことに感謝しよう。

(えっと、なになに・・・こたのあたんごたたうたがとたけるたかたたな・・・って)

「簡単すぎない・・・?」

思わず呟いちゃった。え?ってかこれでよく今まで会話通じてたねって言いいたい。

「は?もう解いたのかよ・・・」

どうやら暗号がからっきしと言う彼の言葉は正しかったみたい。確かにこれで解けて喜んでるのは流石に・・・

「これ、あれですよね?たを抜くやつ」

そう。あれだ。動物の狸からた、ぬき。つまりただけをのぞいてよむってことでしょ?

「正解は、こ、のあ、んご、う、がと、ける、かな。つまり『この暗号がとけるかな』です!」

「正解、だ」

いや、そんな「なんで解けたんだ」って顔されても困るんだけど。

「正直・・・ここまでとは・・・」

「まぁ、それは私もそう思うけどな・・・」

綱吉さんはもう少し難しいのでも解けるし作れるらしいけど新に合わせるとこのぐらいの難易度になっちゃうみたいで。

「だが、このままではいけないことは百も承知だ。そこで、千夜ちゃんの出番って訳」

「・・・え?つまり、わたしが新の代わりに暗号制作と解読をするってこと?」

「そーいうことだね」

「急すぎません?」

「しょうがないじゃん。松尾芭蕉の年齢的にもうすぐ出発しないと間に合わないし」

「まぁ、命令を受けた以上、やりますけど」

暗号か・・・よく千夜ちゃんと暗号の出し合いっこしたな・・・また、会えるといいんだけど・・・

「じゃあ、試しに一個作ってみますね」

綱吉さんに断りを入れてから文机の前に座る。うーん、簡単なのだとなんだろ・・・あ!

「これなら・・・ちょっと待っててください」

(えっと、この時代だとあいうえおじゃなくていろはにほへとだから・・・)

頭の中に表を思い浮かべて照らし合わせながらゆっくり暗号を作っていく。

「できました・・・!」

「どれどれ・・・?」

綱吉さんと新が二人揃って紙を見る。

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