あの道を、貴方と。
→ここから回想スタート!
あの後、無事新の家に帰り、そこにいた涼ちゃんの紹介してもらった。
黒髪が似合う美人さんだった。忍者だからか、髪を結わずに高いところで一つにくぐっていた。
新と同じように目尻が下がっていて、すぐに「新の妹」ってわかるような感じ。
でも性格は本当に正反対!新と違って言葉遣いが丁寧で、わたしがタイムスリップしてきたことを言っても帰ってきた言葉は「そうなんですか。大丈夫でしたか?」だった。
あまりの優しい言葉にちょっと涙が出ちゃったレベル。
そんなほのぼのとした雰囲気が一変したのは三人で夜ご飯を食べて、さぁ出発に準備をしよう、となった時。
「千夜って変装できるか?」
「もちろん!」
「じゃあ、曾良の変装なんだが、歳は四十一。髪は・・・」
「え?まさか、わたしに四十代の変装をしろと?」
「?そのつもりだけど?」
「・・・断固、拒否」
「は?」
「だーかーらー断固拒否!あんなおじさんに変装したくない!」
「いや、そう言われても、そうしないと意味なくないか?」
「そうかもしれないけどぉ」
理屈では分かってるよ。でも、それを実践するのとは訳が違うから!
「必要な服とかはこっちが用意してるから」
「いや、なんでわたしがやる前提で話してるの?」
「やるに決まってるだろ?そうしないとさっきまでの曾良の設定がおじゃんだ」
「むぅ・・・」
そんな感じでわたしと新と攻防は続いた。
その間にいつの間にか涼ちゃんは奥の部屋に引っ込んでいて、わたしたちの争いを止める人は誰一人いない。だからわたしと新の争いも必然的に加速していく。
そして結局、わたしが三十代ぐらいの変装までは譲歩し、この争いに決着がついた時、既に寝たはずの涼ちゃんが起きていて、「出発予定時刻まで、あと一日をきりましたよ」と言われた。
「え⁉︎後一日切ったの⁉︎間に合う⁉︎」
「・・・微妙だな。挨拶回りと、旅の準備と、変装の準備と、千夜に曾良に詠ませるつもりの句も覚えてもらわないと」
指折り数えていく新の顔がどんどん蒼白になっていく。
「さっきの微妙って言葉、訂正するわ。全く間に合う気配がない」
「・・・」
三人が顔を合わせて軽く頷く。バッと一斉に立ち上がってそれぞれしないといけない作業に取り掛かる。わたしは曾良の変装の準備。
涼ちゃんはわたし達の旅の準備(この後、二人になんで前々から準備していなかったのか聞いたら他の任務と芭蕉としての仕事で準備する時間がこのタイミングしかなかったんだって。だとしてもギリギリすぎない?って言う言葉は飲み込んだ)。
新はわたしに詠んでもらう句を書きまくる。
「千夜。書けたぞ」
「了解」
新は書き終わった後手早く芭蕉に変装して家を出て行った。多分、挨拶回りに行ったんだと思う。
わたしも曾良の変装を終えたら新に書いてもらった俳句をひたすら暗記だ。ついでにタイムスリップしてきた時に一緒についてきた忍者道具の点検もやる。
一刻の猶予もないけど、もしこれで錆びてたりしして使えなかったらヤバい。
「千夜さん、油と紙要りますか?」
「お願いします」
忍者道具の手入れをしているって解ったのか、涼ちゃんが錆取りに必要な道具を用意してくれる。ほんと感謝。
「ねぇ、涼ちゃん、小麦粉の予備ってある?昨日新と殺り合いした時に消費しちゃって」
「・・・確か、左から二つ目の棚の三段目にあったと思います」
「ありがと」
言われたところから小麦粉の入った壺を取り出して補充。よし。オッケー。
そんな感じで超ハイパースピードで準備を終わらせて十時ぐらいに体力も気力も使い果たして(そりゃあ江戸城に侵入して新と殺り合ってその後徹夜で喧嘩してその後旅の出発の準備したら使い果たすよね?普通)死んだように眠って、朝起きたら即それぞれの変装の準備だ。ちなみに涼ちゃんはわたし達が寝ている間も準備をしてくれていた。この二日で何回涼ちゃんに感謝したんだろ?もう涼ちゃんに足を向けて寝れないよ。ホント。
ここで回想終わり!