あの道を、貴方と。

『奥の細道』の旅は順調にスタートした。

まず最初に向かうのは日光。綱吉さんがわたしが「日光に行く予定だった」って言うのを聞いて無理やり入れ込んだものだ。

「最初は粗壁へ向かうぞ。そこで一泊したら出発ってところだ」

「ん、了解」

江戸時代の旅の移動手段は基本徒歩。つまりもちろんわたし達も徒歩移動。

「ってかこの変装キツい・・・お化粧も汗で崩れそう・・・」

「変装が崩れるのだけは死守しろよ」

「分かってるよ!」

もし顔の変装が取れたら顔は十五の女の子なのに格好は三十代の男性の変人になっちゃうし、そんなので目だったら一巻の終わり。

(日差しも思ってたよりも強いし・・・)

この旅終わってる頃にはめちゃくちゃ日焼けしちゃうような気がする・・・

「お、もう少しだ」

「え⁉︎ほんと?」

新が指差した方を見ると、[粗壁まであと一里]の看板。一里って確か、三キロか四キロぐらいだよね?うん。確かに後ちょっと。

後どのくらい歩けばいいかわかると足に力が入って予定よりも三十分ぐらい早く目的の宿につくことができた。今日はこの宿で一泊の予定。

「二名ですけど、空いているますか?」

「二階の一番端の部屋が空いてるよ薪代除いて六十文」

「ありがとうございます」

そっけない態度の女将さんに部屋を教えてもらって部屋に向かう。部屋は二人で寝たらぎゅうぎゅうになりそうな小さな部屋。まぁ、節約しないと行けないのは知ってるから文句はないけど。

「ねぇ、薪代って?」

「あぁ、ここは旅籠じゃないからな、米は自分で用意して自分で炊くか、炊いてもらわないといけないんだ。その薪のお金」

「え?旅籠じゃないの、ここ?」

「ここは木賃宿。旅籠はお金がかかりすぎる」

わたしが変装を解く間に教えてくれた事によると、旅籠は安くても百文ぐらいしてしまうらしい。うーん、この宿が六十文でしょ。そう考えたら確かに高いかも・・・。

「まぁ、この先は句会の出座料、加点料、それに短冊や色紙に書いた報酬とかで稼げるから木賃宿で泊まるのも今回だけだと思うぜ」

「出座料って句会に参加してくれてありがとう、ってもらえるお金でしょ、加点料って?」

「加点料は他の参加者の作った俳句の優劣を決めたらもらえる金」

「そんなのでももらえるの?」

「あぁ」

「ちなみに、新って俳句の優劣決められるの?」

「・・・[松尾芭蕉]の中にそこら辺のことが書いてあるからそれを参考に」

「すごいね、その[松尾芭蕉]の説明書」

「だよねぁ・・・っよし、腹減ったし、飯作るか。曾良はここで待ってろ。待ってる間に飯の作り方完璧に覚えておけ。今回は俺がやるけど、本当は曾良が従者だから・・・」

「ん、分かってる。色々ごめんね」

「いや、暗号の県でものすごく感謝してるんだ。こんぐらいお安いご用だ」

そう言って新は部屋を出て行く。あ、新が変装を解かなかったのはこのためか。で、さっき新が言ってたご飯の作り方は・・・あ、これか。とりあえず、ご飯の炊き方だけでも覚えないと。

わたしは紙に意識を向けた。

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