あの道を、貴方と。
弍
(ちょっと待って。整理、整理。えっと、まずわたしが書庫に入って、伊賀流の資料を探して、見つかったと思ったら手に巻物が当たって、落ちて、気づいたらここにいた、と。うん。整理しても意味がわからないどころか、余計わからなくなったね)
とにかく、最優先は服。
さっさと着替えてこの視線をどうにかしたいんだけど、まだかな?
「あ、あそこにあるのが僕の家ですよ」
「あ、あそこが・・・」
彼が指を指したのは少し小高い丘にある一軒家。
一人で住むには少し大きすぎるような気がするけど。あ、でもさっき妹がいるって言ってたから、二人暮らしかな?
五分ほど歩いてやっと到着した。
わたしは忍者だから体を鍛えているけど、彼も息一つ乱れていない。流石に毎日歩けば慣れそうだしね。
スタスタと入っていく彼の後ろに恐る恐る着いていく。
(うわぁ、土間がある・・・!)
今だと滅多に見れない本物!しかも、囲炉裏も、竈もある・・・!
「えっと・・・あった!」
急な大声にびっくりして振り返ると彼(そういえば名前を聞いていなかったね・・・今すぐ聞きたいけど、今ちょっと聞きにくいから後で聞こっと)は桃色の生地に桜を散らした着物に抹茶色の帯を誇らしげに持ち上げていた。見つかって嬉しかったのかな?うん。
「ほら、着替えて着替えて。僕は隣の部屋にいますから」
「あ、はい!」
慌てて返事をすると彼は薄く笑って隣の部屋に行くため立ち上がる。
(あ、名前聞かないと!)
「すみません、聞くのが遅くなってしまったんですけど、あなたのお名前は?」
わたしが聞くと彼は少しびっくりしたような素振りの後、「中川新之助です」と答えてくれた。
「あなたのお名前は?」
「わたし?わたしは松本空ですけど・・・・」
「松本・・・?あ、なんでもありません。さ、着替えてください」
彼、元い中川さんが部屋を出る。今更だけど名前が聞けてよかった〜。
(じゃあ、着替えよっ。確かこうやって・・・)
夏祭りの時に着た着物の着方を思い出しながら着替えていく。もしものことがあるかもしれないから下に黒装束をきたままにしとこ。あれ、これって左前だっけ?いや、左は幽霊!
ようやく着付けれた。ちょっと違うかもだけどこれ以上はムリ。見逃して!
「あの、出来ました」
「あ、出来ました?あぁ、よかった。ちょうどいい大きさですね」
中川さんもいう通り、この着物、大きさがぴったり。着ててびっくりしちゃった。いつのまにかサイズ測ってたの⁉︎ってぐらい。
(うーん、これからどうしよう・・・タイムスリップしたこと、言った方がいいのかな・・・?)
少し迷ったけど、まずは情報収集。今何処にいるかぐらいは分かりたい。
「あの、質問してもいいですか?」
「いいですけど・・・?」
「今って、徳川綱吉様が将軍・・・ですよね?」
「はい、そうです」
「柳川吉保様は・・・」
「柳川様は確か、去年の霜月に御用人ななられた方ですよね?」
(えっと、確か三月二十七日が松尾芭蕉が奥の細道をスタートした日でしょ。ってことは、今は奥の細道スタートの三日前・・・)
江戸時代の中でも比較的治安が良くて、経済もいい感じに回っていたあたりの時代。
(タイムスリップ先でも、あたりの方じゃない?)
しかも此処は将軍のお膝元、江戸。ちょっと探せば仕事も比較的楽に見つかりそうじゃん。
中川さんの家についている格子窓に目を向ける。太陽光がこのくらいなら・・・あとニ、三時間で日没かな。この後どうしよう。二時間で今日の寝床見つけられるかな?
「あの、ここから江戸までどのぐらいですか?」
「うーん、人によるけど普通の人なら一刻ぐらいかな?」
え、ちょっと待って。一刻って何時間?ん?そういえば江戸時代って時間の感覚も違うんだった!
「えっと・・・日没までにつきますか?」
「多分着くと思うけど・・・」
「ありがとうございます!」
「え?今からいくつもりなの?此処から江戸まで?」
「はい、そうですけど?」
「今日はやめといた方がいいです。日暮れが近づくと近くの山の獣が此処まで降りてきます。危険です!」
「獣・・・大丈夫です!わたし、こう見ても強いですし!」
「でも・・・はぁ、わかりました。なら、私もついて行きます」
一人でいく気満々だったのに中川さんがいくと言い出した。
「え⁉︎それこそ危ないじゃないですか⁉︎」
「私は獣にも顔が知れていますから、襲ってきませんし、江戸から此処までなら歩き慣れているので大丈夫ですよ」
ああいえばこう言う。どちらも一歩も引かない話し合いだったけど、結局わたしが折れた。
だって、無理矢理行こうとしても笑顔で止められるんだもん!この人、見かけによらず押しが強いんだけど。
中川さんが戸棚から提灯を取り出す。蝋燭を真ん中に刺して囲炉裏の火を蝋燭に移す。
「よし、準備できました。それじゃあ、行きましょうか」
外に出ると思いの外寒かった。まだ三月だからかな?着物だからかな?
そんなどうでも良いことを考えながらさっきと同じ道を下っていく。特に話すことはないからわたしも中川さんも無言で緩やかな道を降りていく。
とにかく、最優先は服。
さっさと着替えてこの視線をどうにかしたいんだけど、まだかな?
「あ、あそこにあるのが僕の家ですよ」
「あ、あそこが・・・」
彼が指を指したのは少し小高い丘にある一軒家。
一人で住むには少し大きすぎるような気がするけど。あ、でもさっき妹がいるって言ってたから、二人暮らしかな?
五分ほど歩いてやっと到着した。
わたしは忍者だから体を鍛えているけど、彼も息一つ乱れていない。流石に毎日歩けば慣れそうだしね。
スタスタと入っていく彼の後ろに恐る恐る着いていく。
(うわぁ、土間がある・・・!)
今だと滅多に見れない本物!しかも、囲炉裏も、竈もある・・・!
「えっと・・・あった!」
急な大声にびっくりして振り返ると彼(そういえば名前を聞いていなかったね・・・今すぐ聞きたいけど、今ちょっと聞きにくいから後で聞こっと)は桃色の生地に桜を散らした着物に抹茶色の帯を誇らしげに持ち上げていた。見つかって嬉しかったのかな?うん。
「ほら、着替えて着替えて。僕は隣の部屋にいますから」
「あ、はい!」
慌てて返事をすると彼は薄く笑って隣の部屋に行くため立ち上がる。
(あ、名前聞かないと!)
「すみません、聞くのが遅くなってしまったんですけど、あなたのお名前は?」
わたしが聞くと彼は少しびっくりしたような素振りの後、「中川新之助です」と答えてくれた。
「あなたのお名前は?」
「わたし?わたしは松本空ですけど・・・・」
「松本・・・?あ、なんでもありません。さ、着替えてください」
彼、元い中川さんが部屋を出る。今更だけど名前が聞けてよかった〜。
(じゃあ、着替えよっ。確かこうやって・・・)
夏祭りの時に着た着物の着方を思い出しながら着替えていく。もしものことがあるかもしれないから下に黒装束をきたままにしとこ。あれ、これって左前だっけ?いや、左は幽霊!
ようやく着付けれた。ちょっと違うかもだけどこれ以上はムリ。見逃して!
「あの、出来ました」
「あ、出来ました?あぁ、よかった。ちょうどいい大きさですね」
中川さんもいう通り、この着物、大きさがぴったり。着ててびっくりしちゃった。いつのまにかサイズ測ってたの⁉︎ってぐらい。
(うーん、これからどうしよう・・・タイムスリップしたこと、言った方がいいのかな・・・?)
少し迷ったけど、まずは情報収集。今何処にいるかぐらいは分かりたい。
「あの、質問してもいいですか?」
「いいですけど・・・?」
「今って、徳川綱吉様が将軍・・・ですよね?」
「はい、そうです」
「柳川吉保様は・・・」
「柳川様は確か、去年の霜月に御用人ななられた方ですよね?」
(えっと、確か三月二十七日が松尾芭蕉が奥の細道をスタートした日でしょ。ってことは、今は奥の細道スタートの三日前・・・)
江戸時代の中でも比較的治安が良くて、経済もいい感じに回っていたあたりの時代。
(タイムスリップ先でも、あたりの方じゃない?)
しかも此処は将軍のお膝元、江戸。ちょっと探せば仕事も比較的楽に見つかりそうじゃん。
中川さんの家についている格子窓に目を向ける。太陽光がこのくらいなら・・・あとニ、三時間で日没かな。この後どうしよう。二時間で今日の寝床見つけられるかな?
「あの、ここから江戸までどのぐらいですか?」
「うーん、人によるけど普通の人なら一刻ぐらいかな?」
え、ちょっと待って。一刻って何時間?ん?そういえば江戸時代って時間の感覚も違うんだった!
「えっと・・・日没までにつきますか?」
「多分着くと思うけど・・・」
「ありがとうございます!」
「え?今からいくつもりなの?此処から江戸まで?」
「はい、そうですけど?」
「今日はやめといた方がいいです。日暮れが近づくと近くの山の獣が此処まで降りてきます。危険です!」
「獣・・・大丈夫です!わたし、こう見ても強いですし!」
「でも・・・はぁ、わかりました。なら、私もついて行きます」
一人でいく気満々だったのに中川さんがいくと言い出した。
「え⁉︎それこそ危ないじゃないですか⁉︎」
「私は獣にも顔が知れていますから、襲ってきませんし、江戸から此処までなら歩き慣れているので大丈夫ですよ」
ああいえばこう言う。どちらも一歩も引かない話し合いだったけど、結局わたしが折れた。
だって、無理矢理行こうとしても笑顔で止められるんだもん!この人、見かけによらず押しが強いんだけど。
中川さんが戸棚から提灯を取り出す。蝋燭を真ん中に刺して囲炉裏の火を蝋燭に移す。
「よし、準備できました。それじゃあ、行きましょうか」
外に出ると思いの外寒かった。まだ三月だからかな?着物だからかな?
そんなどうでも良いことを考えながらさっきと同じ道を下っていく。特に話すことはないからわたしも中川さんも無言で緩やかな道を降りていく。