心優しい国王は王妃を堂々と愛したい
ヴィーザルの瞳は、
母を救ってやりたいという家族としての情と、
人生を奪われたことへの怒りがないまぜになって
暗い影を落としていた。

「答えられる範囲で構わないが、今ご家族の状況は?」
「父は浮気がバレた後、去勢手術を施されました。
その後は廃人同然になり、
しばらくして自室で首を吊りました。
長姉のウルズはアルコールやドラッグ漬けで身体を壊し、
修道院で療養していますが社会復帰は無理でしょう。
次姉のヴェルザンディは隣国に嫁ぎましたが、
自分の意思を持たない人形のような人で
家族としての交流はありません。
妹のフレイアは嫁ぐ前は名前を知っている程度でしたが
先日晩餐会でお会いしたときに
陛下と仲良くやっているようで安心しました。」
フレイアを幸せに出来ているとは言えないオーディンは
ヴィーザルの言葉に思わず苦笑した。

「あなたの家の状況は理解したが、
あなたは何を望んでいる?
ビフレストへの無条件降伏か?」
「それに近しいといえばそうですが、違いますね。
私が望むのは母の死です。
そして母に引導を渡すのはこの私だ。」
ヴィーザルは悲壮な決意を淡々と語った。
(この若者はかつての自分だ。)
父王から王位を奪うと決意した自分の姿と
そっくり重なるヴィーザルの姿に、
オーディンは共感を覚えるとともに
この男となら同じ未来を目指せると確信したのだった。
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