心優しい国王は王妃を堂々と愛したい
その紙には女性らしいほっそりとした字で、

バルコニーで如何に自分が傷ついたか、
城の者たちの態度にも恐怖を感じること、
自分の心の平穏のためにも誰ともかかわりたくないこと、
が切々と綴られていた。

「王妃の気持ちは理解した。彼女の心が癒えるまで、私は待つことにしよう。引き続き警護を頼む。」
オーディンは兵士にそう言うと、
静かに城へと帰って行ったのだった。
同じ頃、フレイアはオーディンの訪れを半信半疑で待っていた。

翌日から、城には日常が戻った。
オーディンは朝から晩まで政務で忙しく、
側妃ヴァールは王の妃として宮廷を取り仕切っている。
そこにフレイアの影は微塵もない。
城内の誰もがフレイアを気にかけることは無かったし、
フレイアがいなくても
全く滞りなく全ての出来事が過ぎ去っていった。
ただ一人オーディンを除いては。

拒絶の言葉を受け取って以来、
オーディンがギムレー宮へと足を向けることは無かったが、
ギムレー宮へ出入りしている侍女の姿を見るたびに
フレイアの様子を尋ねていた。
侍女の答えはいつも「王妃様は心安らかにお過ごしです。」という決まり切ったフレーズ。
その中身が知りたいのに判を押したような常套句に
オーディンはうんざりしていた。
しかし生来の気弱な性格が災いして、侍女にすら強く不満を言うことが出来ない。

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