心優しい国王は王妃を堂々と愛したい
モーリュの項には
薄い紙切れが1枚挟まっていた。
この辞典に何かできるとすれば
自分以外には母しかいない。
母の遺したメモを
フレイアは少し緊張しながら読み進めた。

『可愛いフレイアへ

あなたがこのメモを読んでいるということは、
おそらくまた女王陛下が暴走を始めたのでしょう。
アスフォデルスの蜜酒は確かに甘美で私も大好きだけれど、
一歩間違えれば人を死に招くのです。

社交界での専らの噂で、
女王陛下は消えてほしい相手に
アスフォデルスの蜜酒を振る舞う
というものがありました。
違法な手段で製造されたであろうそれは、
飲んだ者の人体を蝕み、
最悪の場合、死に至らしめるのです。

私にはたまたま高名な薬師の知り合いがいて、
その対処法を教わりました。
幸運にも私は
その酒を振る舞われることはありませんでしたが、
あなたがそうでないとは限らない。
どうか生き抜いてね。

母より』
 
母が遺してくれたメモからするに
モーリュという薬草が解毒作用を持つのだろう。
フレイアは母に感謝するとともに、
ヘリヤ女王の恐ろしさに身がすくむ思いがした。
しかしヘリヤ女王の影に怯えている場合ではない。
ビフレスト王国の内部崩壊こそが
女王の狙いなのだろう。
弱りきったところを叩こうとしているのだ。
それだけはなんとしても防がなければ。
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