ラブレターは紙ひこうき
第二話
〇学校・廊下(朝)
生徒たちが友達とあいさつを交わす。
陽茉莉は自分の下駄箱で靴を履き替えている。
陽茉莉があくびをかみ殺していると、後ろから声をかけられた。
沙夜「マリ、おはよー」
陽茉莉「あ、沙夜。おはよ」
沙夜「眠そうだね。また遅くまで本読んでたの?」
陽茉莉「ん……まぁ、そんなとこ」
曖昧な返事の陽茉莉を気にすることなく、二人並んで教室へ向かおうとする。
陽茉莉(ほんとは、何度もあの紙ひこうきの中身を読んでたなんて言えない。もし本当に会長のものだったとしたら……どうしたらいいんだろう)
階段を上ろうとすると、3年の下駄箱周辺に小さな人だかりができているのが目に入った。
生徒①「会長、おはようございまーす」
生徒②「レン先輩、文化祭楽しみですー」
制服のリボンの色からすると、2年生。
会長が登校してきたのを見計らって話しかけに行ったのだろう。
夏蓮「おはようございます」
会長はあいさつを返してすぐ背を向ける。
それでも2年生はかまわず話を続ける。
生徒①「文化祭はなにするんですかー?」
生徒②「もしかして、出店とかできるんですかぁ?」
きゃっきゃと騒ぐ2年生に、3年生が釘をさす。
生徒③「あんまり八神くんを困らせないでねぇ」
生徒④「あなたたちと違って忙しいからねー」
3年生の顔は笑っているが、ぞっとするほど目は鋭い。
その圧に押されて2年生は退散していく。
まるで会長を守るかのようにガードしながら歩いている。
沙夜「なんか、すごいねぇ」
陽茉莉「ちょっと怖いね」
沙夜「会長も、表情変わらないね」
陽茉莉「それもちょっと怖い」
陽茉莉(ほんとに、不愛想すぎて怖い。あんな人がほんとに、あんなの書いたのかなぁ)
陽茉莉は紙ひこうきの中身を思い出す。
どうしても昨日今日見た会長とイメージが違いすぎる。
〇学校・教室
先生②「みんな、おはよう。今日は今から、文化祭実行委員を決めたいと思う。誰か、やりたい人いるか?」
先生②は片手を挙げるが、教室内は静まり返る。
無理もない、高校入学してまだ2週間程度、クラスの半分以上とまだ話したこともない。
先生②は挙げた手で頭をぽりぽりかいた。
先生②「うーん、誰かを推薦、ってわけにもいかないよなぁ」
困って教室中を見渡す先生②と、誰もが目を合わせようとしない。
そのとき、斜め前にいる沙夜から手紙が届いた。
きれいにたたまれたそれを開くと、『一緒にやらない?』と書かれている。
陽茉莉が沙夜を見ると、小さく首を傾げている。
陽茉莉(まぁ、沙夜が一緒なら)
陽茉莉が小さくうなずくと、沙夜は嬉しそうに笑って手を挙げた。
沙夜「私、やります」
陽茉莉「わ、私も」
沙夜に続いて手を挙げると、先生②がほっとした表情を浮かべた。
先生②「助かるよ。えぇっと」
先生②は座席表を見てから沙夜と陽茉莉に言う。
先生②「秋葉と楠か。ありがとう、よろしく頼む。すまんな、まだ名前覚えきれてなくて」
先生②が照れたように笑う。
〇学校・教室(夕方)
先生②「じゃあ、みんな気を付けて帰るように。ちなみに、部活の体験入部は今週までだからなー」
クラスメイトが各々席を立つと、先生②がこちらへやってくる。
先生②「秋葉、楠、悪いけどこれ」
先生②から一枚のプリントを渡される。
先生②「文化祭実行委員に渡してくれって。明日の朝、少し時間つくるから読んでおいてくれな」
沙夜「はーい」
沙夜がプリントを受け取る。
陽茉莉も沙夜の隣でプリントを覗き込む。
先生②「じゃ、よろしく」
〇学校・図書室(放課後)
先生①「あら、楠さん。いらっしゃい」
本が大好きな陽茉莉は放課後にいつも図書室で本を読んでから帰る。
図書委員よりも遅くまで図書室にいる。
陽茉莉「こんにちは」
先生①「そうそう、新刊入ってるわよ」
陽茉莉「えっ、ほんとですか?」
先生①がにっこり笑って新刊の並べてある棚を指さした。
うきうきで本を選び、いつものように窓際で本を読む。
本に夢中になっていて、斜め向かいに誰かが座ったことにも気づかなかった。
本を読み終えて、満足げに顔をあげた陽茉莉の視界に飛び込んできた人物に思わず声を上げた。
陽茉莉「生徒会長!?」
言ってしまってから、はっと口を紡ぐ陽茉莉。
外はもう暮れかかっていて、いつものように図書室に生徒は陽茉莉だけ。
いや、今日は生徒会長もいるけれど。
先生①も本に夢中で気づいていないようだ。
陽茉莉(生徒会長がなんでここに?いや、別にあたしに用があるわけじゃないよね)
しかし、陽茉莉の声で会長は陽茉莉をじっと見つめている。
陽茉莉(うるさかった、よね……今日はもう帰ろう)
陽茉莉はそうっと席を立ち、本を棚に戻して図書室を出た。
〇学校・図書室外
陽茉莉はふぅと息を吐く。
帰ろうと歩き出すと、すぐ後ろから扉が開かれる音がした。
思わず振り返ると、そこには会長がこちらを見て立っていた。
陽茉莉(え?)
陽茉莉は会長に道を譲るように端に寄った。
しかし、会長は動かないどころか、陽茉莉を目で追っている。
陽茉莉(なにこれ?どういうこと?)
状況が理解できない陽茉莉は、その場から逃げ出した。
駆け足で階段を降り、あっという間に下駄箱まできてしまう。
〇学校・下駄箱
陽茉莉の息が少し上がる。
陽茉莉(いったいなんだったんだろう……)
少し呼吸を整え、靴を履き替えて校庭に出た陽茉莉は、さらに驚いた。
校庭の真ん中に、会長が立っている。
陽茉莉(しゅ、瞬間移動?……な、わけないか)
〇学校・校庭
陽茉莉はできるだけ息を殺し、会長の横を通り過ぎようとした。
そこに、会長が急に話しかけてきた。
夏蓮「一昨日、ここで拾った?」
陽茉莉は立ち止まり、思わず会長を振り返る。
夏蓮「一昨日、紙ひこうき、拾った?」
陽茉莉「……紙ひこうき?」
一瞬、会長がなにを言っているのか陽茉莉はわからなかった。
陽茉莉(紙ひこうきって、あの?やっぱり、会長のだったの?)
陽茉莉「え、えっと……あの」
しどろもどろになる陽茉莉を見て、会長は大きなため息をついた。
そして、陽茉莉に近づいた。
夏蓮「拾ったんだな?」
会長は眉間にしわを寄せ、怖い顔で聞いてくる。
陽茉莉は素直にうなずいた。
会長は先ほどよりも大きく長いため息をついた。
陽茉莉「あの、どうして」
どうして自分だとわかったのか、と聞く前に、会長自ら話し始める。
夏蓮「ここのところ、下校時間が妙に遅い生徒がいるとは聞いていた。注意喚起しなくてはと探していたのだが……」
会長はちらっと陽茉莉を見た。
夏蓮「まさか一昨日、あの時間まで残っていたとは」
陽茉莉(確かに、一昨日はいつもよりも遅かったけど)
夏蓮「捨てるつもりだったんだ。捨てるというよりは、帰る途中また拾うつもりで」
会長が顔を背けながら独り言のようにつぶやいている。
陽茉莉には聞こえていない。
そしてぱっと陽茉莉の方を向き、腕を組みながら尋ねる。
夏蓮「それで、読んだのか?」
陽茉莉「え?」
夏蓮「あれを開いて、中を読んだのか?」
聞かれて陽茉莉は内容を思い出して顔を染める。
その反応に、会長は思わず眉をひそめた。
夏蓮「読んだんだな」
陽茉莉「……はい、すいません」
会長は右手で頬やあごをさすり、顔を隠すような仕草をするが、もう遅い。
夕焼けのせいではなく、会長の顔は真っ赤に染まっていた。
夏蓮「……れてくれ」
陽茉莉「えっ?今、なんて」
夏蓮「忘れてくれ、といったんだ」
思わぬ強い口調に陽茉莉は後ずさる。
それを見て、会長は大きく深呼吸した。
夏蓮「悪い、思わずその……」
この数分で、陽茉莉は会長のいろんな表情が見えたことに驚く。
陽茉莉(会長がここまで動揺するなんて)
陽茉莉「紙ひこうき、お返しした方がいいですよね。だってあれ、ラブレターみたいなものですよね」
陽茉莉の言葉に、会長は右手を陽茉莉の顔の前に突き出した。
夏蓮「もう、それ以上言わないでくれ」
大きく広げた手の指の隙間から、会長が困ったようにこちらを見る。
陽茉莉(会長ってこんな顔するんだ)
夏蓮「返して、くれるか?」
陽茉莉「もちろんです」
夏蓮「よかった、助かる。でも、お願いだから忘れてくれ」
会長は必ず返してくれと念を押してから先に帰っていった。
陽茉莉(会長のあの態度……相手はどんな人なんだろう)
生徒たちが友達とあいさつを交わす。
陽茉莉は自分の下駄箱で靴を履き替えている。
陽茉莉があくびをかみ殺していると、後ろから声をかけられた。
沙夜「マリ、おはよー」
陽茉莉「あ、沙夜。おはよ」
沙夜「眠そうだね。また遅くまで本読んでたの?」
陽茉莉「ん……まぁ、そんなとこ」
曖昧な返事の陽茉莉を気にすることなく、二人並んで教室へ向かおうとする。
陽茉莉(ほんとは、何度もあの紙ひこうきの中身を読んでたなんて言えない。もし本当に会長のものだったとしたら……どうしたらいいんだろう)
階段を上ろうとすると、3年の下駄箱周辺に小さな人だかりができているのが目に入った。
生徒①「会長、おはようございまーす」
生徒②「レン先輩、文化祭楽しみですー」
制服のリボンの色からすると、2年生。
会長が登校してきたのを見計らって話しかけに行ったのだろう。
夏蓮「おはようございます」
会長はあいさつを返してすぐ背を向ける。
それでも2年生はかまわず話を続ける。
生徒①「文化祭はなにするんですかー?」
生徒②「もしかして、出店とかできるんですかぁ?」
きゃっきゃと騒ぐ2年生に、3年生が釘をさす。
生徒③「あんまり八神くんを困らせないでねぇ」
生徒④「あなたたちと違って忙しいからねー」
3年生の顔は笑っているが、ぞっとするほど目は鋭い。
その圧に押されて2年生は退散していく。
まるで会長を守るかのようにガードしながら歩いている。
沙夜「なんか、すごいねぇ」
陽茉莉「ちょっと怖いね」
沙夜「会長も、表情変わらないね」
陽茉莉「それもちょっと怖い」
陽茉莉(ほんとに、不愛想すぎて怖い。あんな人がほんとに、あんなの書いたのかなぁ)
陽茉莉は紙ひこうきの中身を思い出す。
どうしても昨日今日見た会長とイメージが違いすぎる。
〇学校・教室
先生②「みんな、おはよう。今日は今から、文化祭実行委員を決めたいと思う。誰か、やりたい人いるか?」
先生②は片手を挙げるが、教室内は静まり返る。
無理もない、高校入学してまだ2週間程度、クラスの半分以上とまだ話したこともない。
先生②は挙げた手で頭をぽりぽりかいた。
先生②「うーん、誰かを推薦、ってわけにもいかないよなぁ」
困って教室中を見渡す先生②と、誰もが目を合わせようとしない。
そのとき、斜め前にいる沙夜から手紙が届いた。
きれいにたたまれたそれを開くと、『一緒にやらない?』と書かれている。
陽茉莉が沙夜を見ると、小さく首を傾げている。
陽茉莉(まぁ、沙夜が一緒なら)
陽茉莉が小さくうなずくと、沙夜は嬉しそうに笑って手を挙げた。
沙夜「私、やります」
陽茉莉「わ、私も」
沙夜に続いて手を挙げると、先生②がほっとした表情を浮かべた。
先生②「助かるよ。えぇっと」
先生②は座席表を見てから沙夜と陽茉莉に言う。
先生②「秋葉と楠か。ありがとう、よろしく頼む。すまんな、まだ名前覚えきれてなくて」
先生②が照れたように笑う。
〇学校・教室(夕方)
先生②「じゃあ、みんな気を付けて帰るように。ちなみに、部活の体験入部は今週までだからなー」
クラスメイトが各々席を立つと、先生②がこちらへやってくる。
先生②「秋葉、楠、悪いけどこれ」
先生②から一枚のプリントを渡される。
先生②「文化祭実行委員に渡してくれって。明日の朝、少し時間つくるから読んでおいてくれな」
沙夜「はーい」
沙夜がプリントを受け取る。
陽茉莉も沙夜の隣でプリントを覗き込む。
先生②「じゃ、よろしく」
〇学校・図書室(放課後)
先生①「あら、楠さん。いらっしゃい」
本が大好きな陽茉莉は放課後にいつも図書室で本を読んでから帰る。
図書委員よりも遅くまで図書室にいる。
陽茉莉「こんにちは」
先生①「そうそう、新刊入ってるわよ」
陽茉莉「えっ、ほんとですか?」
先生①がにっこり笑って新刊の並べてある棚を指さした。
うきうきで本を選び、いつものように窓際で本を読む。
本に夢中になっていて、斜め向かいに誰かが座ったことにも気づかなかった。
本を読み終えて、満足げに顔をあげた陽茉莉の視界に飛び込んできた人物に思わず声を上げた。
陽茉莉「生徒会長!?」
言ってしまってから、はっと口を紡ぐ陽茉莉。
外はもう暮れかかっていて、いつものように図書室に生徒は陽茉莉だけ。
いや、今日は生徒会長もいるけれど。
先生①も本に夢中で気づいていないようだ。
陽茉莉(生徒会長がなんでここに?いや、別にあたしに用があるわけじゃないよね)
しかし、陽茉莉の声で会長は陽茉莉をじっと見つめている。
陽茉莉(うるさかった、よね……今日はもう帰ろう)
陽茉莉はそうっと席を立ち、本を棚に戻して図書室を出た。
〇学校・図書室外
陽茉莉はふぅと息を吐く。
帰ろうと歩き出すと、すぐ後ろから扉が開かれる音がした。
思わず振り返ると、そこには会長がこちらを見て立っていた。
陽茉莉(え?)
陽茉莉は会長に道を譲るように端に寄った。
しかし、会長は動かないどころか、陽茉莉を目で追っている。
陽茉莉(なにこれ?どういうこと?)
状況が理解できない陽茉莉は、その場から逃げ出した。
駆け足で階段を降り、あっという間に下駄箱まできてしまう。
〇学校・下駄箱
陽茉莉の息が少し上がる。
陽茉莉(いったいなんだったんだろう……)
少し呼吸を整え、靴を履き替えて校庭に出た陽茉莉は、さらに驚いた。
校庭の真ん中に、会長が立っている。
陽茉莉(しゅ、瞬間移動?……な、わけないか)
〇学校・校庭
陽茉莉はできるだけ息を殺し、会長の横を通り過ぎようとした。
そこに、会長が急に話しかけてきた。
夏蓮「一昨日、ここで拾った?」
陽茉莉は立ち止まり、思わず会長を振り返る。
夏蓮「一昨日、紙ひこうき、拾った?」
陽茉莉「……紙ひこうき?」
一瞬、会長がなにを言っているのか陽茉莉はわからなかった。
陽茉莉(紙ひこうきって、あの?やっぱり、会長のだったの?)
陽茉莉「え、えっと……あの」
しどろもどろになる陽茉莉を見て、会長は大きなため息をついた。
そして、陽茉莉に近づいた。
夏蓮「拾ったんだな?」
会長は眉間にしわを寄せ、怖い顔で聞いてくる。
陽茉莉は素直にうなずいた。
会長は先ほどよりも大きく長いため息をついた。
陽茉莉「あの、どうして」
どうして自分だとわかったのか、と聞く前に、会長自ら話し始める。
夏蓮「ここのところ、下校時間が妙に遅い生徒がいるとは聞いていた。注意喚起しなくてはと探していたのだが……」
会長はちらっと陽茉莉を見た。
夏蓮「まさか一昨日、あの時間まで残っていたとは」
陽茉莉(確かに、一昨日はいつもよりも遅かったけど)
夏蓮「捨てるつもりだったんだ。捨てるというよりは、帰る途中また拾うつもりで」
会長が顔を背けながら独り言のようにつぶやいている。
陽茉莉には聞こえていない。
そしてぱっと陽茉莉の方を向き、腕を組みながら尋ねる。
夏蓮「それで、読んだのか?」
陽茉莉「え?」
夏蓮「あれを開いて、中を読んだのか?」
聞かれて陽茉莉は内容を思い出して顔を染める。
その反応に、会長は思わず眉をひそめた。
夏蓮「読んだんだな」
陽茉莉「……はい、すいません」
会長は右手で頬やあごをさすり、顔を隠すような仕草をするが、もう遅い。
夕焼けのせいではなく、会長の顔は真っ赤に染まっていた。
夏蓮「……れてくれ」
陽茉莉「えっ?今、なんて」
夏蓮「忘れてくれ、といったんだ」
思わぬ強い口調に陽茉莉は後ずさる。
それを見て、会長は大きく深呼吸した。
夏蓮「悪い、思わずその……」
この数分で、陽茉莉は会長のいろんな表情が見えたことに驚く。
陽茉莉(会長がここまで動揺するなんて)
陽茉莉「紙ひこうき、お返しした方がいいですよね。だってあれ、ラブレターみたいなものですよね」
陽茉莉の言葉に、会長は右手を陽茉莉の顔の前に突き出した。
夏蓮「もう、それ以上言わないでくれ」
大きく広げた手の指の隙間から、会長が困ったようにこちらを見る。
陽茉莉(会長ってこんな顔するんだ)
夏蓮「返して、くれるか?」
陽茉莉「もちろんです」
夏蓮「よかった、助かる。でも、お願いだから忘れてくれ」
会長は必ず返してくれと念を押してから先に帰っていった。
陽茉莉(会長のあの態度……相手はどんな人なんだろう)