ラブレターは紙ひこうき

第四話

〇自宅・リビング(夕方)

陽茉莉「ただいまー」

しょんぼりしたまま帰宅する陽茉莉。
リビングの扉を開けると、明るい声が聞こえてきた。

郁「おかえり、陽茉莉ー」

ソファから郁が陽茉莉を見て笑って手を振っている。
郁は陽茉莉のいとこの大学生。
陽茉莉からしたらきれいな憧れのお姉さん。

陽茉莉「郁ちゃん?きてたの?」
郁「これ、渡そうと思ってさ」

郁は立ち上がって陽茉莉のところまできて、小さな箱を渡す。

郁「高校入学、おめでとう」
陽茉莉「わぁ、ありがとう。あけていい?」

郁は笑顔でうなずく。
陽茉莉は包みを丁寧にはがし、箱のふたを開ける。
そこにはかわいらしい小瓶が入っていた。

陽茉莉「これ、って」
郁「香水ね」
陽茉莉「嘘、やったぁ」
母「やだ、郁ちゃん。そんな高級そうなの」
郁「そんなに高くないですよ。においもきつくないし、もう高校生だし、ね」

郁は陽茉莉に意味ありげな視線をよこした。

陽茉莉(前にあたしが香水ほしいって言ってたの、覚えててくれたんだぁ)

郁「においきつくないって言っても、つけるのはワンプッシュくらいにしときなね」
陽茉莉「はぁい」

陽茉莉は香水の小瓶を掲げて嬉しそうに笑う。

陽茉莉「ねぇ、郁ちゃん。あたしの部屋行っておしゃべりしよっ」
郁「いいよぉ」

陽茉莉が郁の手を取る。
母が慌てて郁に声をかける。

母「あ、郁ちゃん、お夕飯食べてく?」
郁「え?でも」
母「一人暮らしなんでしょう?時間あるなら食べていってよ」
陽茉莉「そうしよう!」
郁「ん-、じゃあ、そうしようかな」
陽茉莉「やったっ」

陽茉莉は郁を連れて自分の部屋へと向かう。

〇自宅・陽茉莉の部屋

郁の前で堂々と着替える陽茉莉。

郁「少しは恥じらいなさいよ」

ぽかっと軽く陽茉莉の頭を小突く郁。
へへっと笑う陽茉莉。
お互いのことをいろいろと報告しあう二人。
しばらくして母からごはんだと声がかかる。

〇自宅・リビング(夜)

郁「はぁ、なんか久しぶりにおいしいごはん食べたぁ。ごちそうさまでしたぁ」

満足そうな郁を見てニコニコの母。
郁は食べた食器をシンクへ持っていく。

陽茉莉「ごはん、食べてないの?」
郁「いや、料理下手でさぁ、しかも作る時間もないし」
母「そうよねぇ、郁ちゃんバイトしてるんでしょう?」
陽茉莉「どんなバイト?」
郁「家庭教師」
母「じゃあ、陽茉莉の家庭教師もお願いしたらよかったねぇ」

母が笑いながら陽茉莉の食器を下げて洗い物を始める。

郁「おじさん、遅いんですね」
母「そうねぇ、今忙しいみたい」
郁「そっかぁ。久しぶりに会いたかったけど、そろそろ帰らなきゃ」

陽茉莉、しゅんとする。
郁、そんな陽茉莉を見て小さく笑う。

郁「またくるよ」

郁、陽茉莉の頭をわしゃわしゃなでる。
ぼさぼさ頭になる陽茉莉。
笑顔で帰っていく郁。
しかし20分後、郁から陽茉莉に電話。

郁『ごめん、定期忘れてない?』

母と二人でリビングを探す。
陽茉莉、ソファの下に落ちてる定期を見つける。
陽茉莉へのプレゼントを出したときに落としたと思われる。

陽茉莉『あったよ、すぐ持ってくね』
郁『ほんと?ごめん、ありがと。改札前にいるね』

陽茉莉「郁ちゃんに届けてくるね」
母「気を付けてね」
陽茉莉「はぁい」

〇自宅前

自転車にまたがり、駅へ向かう陽茉莉。
急いで届けようと猛スピードでこぐ。


〇駅・自転車置き場から改札前

自転車置き場に自転車を置き、走って改札へ向かう。
郁を見つけ、声をかけようとしたとき、郁の隣の人物が目に入る。

陽茉莉(……か、会長?)

郁の隣で親しそうに話す会長の姿に、陽茉莉は驚いて立ち止まる。
とても柔らかい笑顔の会長を見て、少し心が痛む陽茉莉。
郁がふと陽茉莉に気づき、手を振る。
会長も郁の視線をたどって陽茉莉を見つけ、驚いた顔をする。
陽茉莉も手を振り返しながらゆっくりと近づく。

郁「陽茉莉、わざわざごめんね。ありがとう」

郁が差し出した手に定期を置く陽茉莉。

陽茉莉「……ううん、平気」
郁「この子、あたしのいとこなの。かわいいでしょー」

郁が陽茉莉の腕に自分の腕を絡ませ、会長に紹介する。
さっきまで笑顔だった会長の戸惑った表情に、郁が陽茉莉を見る。
陽茉莉も少しぎこちない顔をしており、郁が不思議そうな顔をする。

陽茉莉「郁ちゃん、この人、うちの高校の生徒会長なの」
郁「えっ、そうなの?なーんだ、知り合いなんだぁ」
陽茉莉「郁ちゃんは、なんで会長と?」
郁「さっき言ってた家庭教師の教え子なの。ね、レンくん」

会長は黙ったままうなずいた。

郁「じゃ、あたし行かなきゃ。陽茉莉、気を付けて帰るんだよ」
陽茉莉「……うん」
郁「もちろん、レンくんもね」
夏蓮「わかってますよ」

こちらに手を振りながら笑顔で改札を通る郁を、陽茉莉と会長は並んで見送る。
ふっと会長の方を見る陽茉莉。
会長はとても優しい目つきで最後まで郁を見つめていた。
それを見て、陽茉莉にはわかってしまった。

陽茉莉(会長の好きな人って)

陽茉莉、会長から郁へ視線を移す。

陽茉莉(郁ちゃんなんだ……)

そして同時に、言いようのない寂しさが心を襲った。

夏蓮「まさか、知り合いだったとはな」

突然会長に話しかけられ、びくっとして会長の方を見る。
いつもの会長のすました顔。
でも、陽茉莉は気づいてしまう。
会長の耳が真っ赤なことに。
少し困ったように視線を落とし、会長は静かに言った。

夏蓮「どうしてこうも、きみには変なところばかり見られるんだろうな」

陽茉莉、なんと返していいかわからず黙ってしまう。

夏蓮「じゃ、気を付けてな」

さっと背中を向けてしまう会長に、心が痛む陽茉莉。

陽茉莉(どうして……)

陽茉莉、郁の去った改札をじっと見つめる。

陽茉莉(どうして郁ちゃんのこと、うらやましいなんて思うんだろう)

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