私のこと愛しすぎだよ、結多くん。
「ほら、映った。これよこれ。懐かしいわあ」
どうやらお母さんは、そのブラスバンド目当てで甲子園中継を観ていたらしいのだ。
ちなみにお父さんはうたた寝を決め込んでいる。
「トランペット…、やっぱり吹けると楽しい?」
「やめときなさーい、このみ。上手な子はほんっとうに肺活量から違うのよ。お母さんも高校から始めたけれど、
せめて端っこで小さく小さく吹いてることしかできなかったから」
「……うん」
別に“やりたい”とは、言っていない。
楽しい?って聞いただけ。
昔からうちはこんな感じで、無難な道を選ぶ。
私が新しいことに取り組もうとすると「このみにはこっちのほうがいいんじゃない?」、「このみはこっちのほうが合うよ」と言われてしまう。
だから、というわけではないけれど、私の控えめすぎる性格を作り出した環境のひとつとしては、こんなものがあった。