私のこと愛しすぎだよ、結多くん。




「ゆ、ゆいたくん……落ち着いて、」


「………うん。落ち着きました」



ペキッ。

とうとう折れた筆が、結多くんに水をかけてくれた。



「接着剤接着剤、3分ルール、今からならバレねえ。な、このみちゃん」


「う、うんっ、これ接着剤…」


「あっりがと天使」



たまたま見つけた瞬間接着剤。

何事もなかったという既成事実を作るため、結多くんは思ったより器用な手先で折れた断面に塗ってゆく。



「……このみちゃん。俺たちの肩にも一応つけとく?」


「…つけとかないです。お風呂とかトイレとか……大変だから」


「………結多のデビューシングルのタイトルが決まりました。それでは聞いてください、“困惑と期待”」



残りの20分のうち、10分は筆の修理。

もう10分は片付けになりそうだと、腰を上げたときだった。



「俺はこのみちゃんだからいーんだよ」



独り言のようで、そうじゃない。

しっかりと私に届けてくるボリュームだった。


パレットを洗う水道の音で聞こえていないと思っているのは結多くんのほう。



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