私のこと愛しすぎだよ、結多くん。
ぜんぶぜんぶひっくるめて、結多くんは私を壁際まで追い詰めてきた。
うつむいて、顔を隠して、せめてもの隠れ身の術。
「私……結多くんにそこまでされる存在じゃ、ない…」
特別な“きっかけ”や、特別な“何か”が、私たちにはない。
ドラマや小説では、ふたりにしかない思い出というものが必ずある。
でも私と結多くんが出会ったのは高校で、ありふれたクラスメイトで、たまたま隣同士の席になっただけ。
そこまで結多くんが私のことだけを考える“特別なきっかけ”というものが、まったくない。
私だってたまに本気で考えるよ。
結多くん、だれかと間違えてない?……って。
「ばかもの。…俺はどーでもいい子に対して天使だなんて嘘でも言えねえよ。そのほうが逆に失礼だし、え、俺ってそこまで暇人に見えてます?」
とん、とん、とん。
擦ってくれていた温かさが、次はあやすようなものに変わった。