私のこと愛しすぎだよ、結多くん。
「……え、」
さすがに、だ。
すぐ横のドアが開いたからといって、まさか一般席に座っているこのみちゃんが立ち上がるだなんて思っていなかった。
え、このみちゃんの最寄り駅ってここだったっけ…?
「お、ちょうどいい席があるな」
よかったらここに座ってください、とか。
わざわざ言うこともしないで、少し離れた場所のつり革を掴むこのみちゃん。
そもそも自分のために空けられたことにすら、おじいさんは気づかない。
人見知りってのが強いのかもしれないが、あたかも元から空けられていました状態を作るかのように、自然と立ち上がって。
ほら、それだけで満足そうに微笑むんだから。
「………きれい、だ…」
たぶん“きれい”って、ああいうのを言うんだって。
心が、優しさが、なんかもう何もかもが。
あれが本物の天使なのですよ───神様からのお告げが、俺にはハッキリと聞こえた。