ヒートフルーツ【特別編集版第1部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪
盛夏の傷痕/その8
アキラ


どうやらあの夜以来、オレ、監視されてるって感じだ

おそらく、ケイコちゃんもそうなんだろう

この状態は、”例の件”が警察沙汰になるまで続くはずだ

もうケイコちゃんは、麻衣からオレの件は聞いているってことか…

彼女には会わせる顔もないが、やはり会いたい

クソッ、蛇の生殺しってやつで、気が狂いそうだ


...


プルルン、プルルン…

電話が鳴っている

出ようか出まいか、迷ったが、受話器を取った

「アキラか…?」

受話器の向こうの声が赤子さんだってのは、すぐわかった

「…」

オレ、しゃべれない…、言葉が出ない

「…、大丈夫かって言いいたいけど、大丈夫な訳ないだろうしな…」

赤子さんはどこまで知ってるのだろう?

「ローラーズの追っかけって子から、事務所に電話があったよ。
アンタを大阪行かせない計画だったって…。そう言ってたぞ」

「赤子さん、オレ…」

「本当みたいだな。その子、タクヤと付き合ってたって。ハメたのは、タクヤらしいって…。アキラ、まさか危害加えられたりとか、あったのか?それなら傷害だ、警察だぞ」

「…、あの、それはないんで…」

オレ、ウソついてる

ウソつかなきゃいけない、今の立場も痛感してる

「それならいいけどさ。軟禁だけだって犯罪だぞ、あの野郎!」

ウソだけじゃない、隠し事もだ

オレはふと、部屋の隅にそっと置いてある、ギターケースに目をやった

あれ、赤子さんと一緒に選んで買った、特別なギターだった

特別で大切なそのギターはあの夜、麻衣に破壊された

無残な姿と果てたケースの中身が頭に浮かぶと、涙がこみ上げてきた

悔しさとか情けなさとかが、ごちゃまぜだ

受話器の向こうには赤子さんがいるのに、オレは泣いてる

必死に声、殺して…







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