ヒートフルーツ【特別編集版第1部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪
発熱の代償/その9
剣崎



「8月31日、麻衣がファミレスで一芝居打つ直前まで、香月は麻衣と一緒だった。場所は麻衣の部屋だ。その後、ヤツと会った際、部屋のカギはヤツから直接受け取った。ここまで、いいか?わかるか?」

「…」

相変わらずうつむいているケイコは、無言で泣いている

「ヤツとは麻衣の部屋で話をした。サシでな。ヤツは、お前が今したのと意味合いの近い質問をしてきた。彼はこう言ったよ。今回のシナリオで、お前ら3人が不起訴で一応の決着をみた後、俺らとの何らかのしがらみで、”足抜け”できないようなリスクは本当にないのかと…。奴にしては珍しく言質を迫ってきた」

ケイコは一向に顔を上げようとしない

さっきほどまでではないが、肩を震わせて泣いている

俺は続けた

「それでな、俺は問いただした。さっき、お前に言った通りの言葉でな。その答えは、自分とお前だけじゃなく、麻衣も含んでだった。ヤツは麻衣を心底恨んではいるが、身の上は案じていたんだ」

こう言った後は、ケイコはやはり動揺したようで、大きな泣き声を上げながら、大粒の涙を流した

「…、その理由を尋ねたら、ヤツは答えた。麻衣は憎んでも余りあるが、もう決まりをつけたと。俺が会う前にケリがついたと言ってた。もちろん、体の関係でってことではない。それは間違いない。だが、ヤツは、一連の麻衣との”ぶつかり合い”で、ヤツを気遣う気持ちに至ったんだ」

俺は、あえて、全部ケイコに明かした


...



考えてみれば、残酷な仕打ちだったかも知れない

相手は未成年のガキ、しかも女子高生だ

「香月はお前のことを一番に考えてる。それは言うまでもない。麻衣の部屋でヤツと打合せした時も、お前だけは何とかサツには行かせないでほしいと懇願してたしな。おそらく、お前のクスリを抜いた期間を考えれば、薬物反応は出ない可能性が強い。その辺をヤツも当て込んで、俺に喰いついてた。だけど、同時に麻衣のこともな…」

言葉がなかなか続かない…

ここまで泣き続けられたら、いい加減、寄り添ってやりたくなる

俺は非情に徹底することの空虚さを、今更ながら再認識させられた

そもそも、非情に徹するとかカッコつけても、所詮は自分らの損得勘定に行きつく

そう考えると、なんともタメ息がでる”仕事”だ

「いいか、結論だ。今回、一応の決着がついて、お前たちが再会できた後は、麻衣とは接触するな。俺の言いたいこと、分かるな?香月はフレるヤツだ。いい悪いは別としてな。お前が首に縄つけてでもってくらいじゃなきゃ、俺の立場では何ともなんだよ。これ以上は言えないぞ、よく噛み砕いてくれ」

ケイコは、相変わらず下を向いて、しくしく泣き続けていた






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