ヒートフルーツ【特別編集版第1部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪
終われない夏の日/その8
追川



そして、この夏の初め、カリスマ極道の相馬が死んだ

当然、跡目の指名で組内には相応の波風が立つだろう

今が相和会の真相究明には、絶好のチャンスだ

いや、この機を逃すと、永遠に奴らの正体は闇のままだ

オレは決意を新たにした

その矢先…、大きな波乱が”一気”に起きる

相和会2代目に就任した建田が、脱税容疑で逮捕されたのだ

更に、建田の組内から違法薬物関連の容疑で、逮捕者が出た

その薬物事案の延長線上で、衝撃の一報を得る

なんと、二人の女子高生が警察の聴取を受けていると…

この二人が、相馬に囲われた例の女の子達であることに、疑う余地はない

その直後、建田とは長年の恩讐関係にある、矢島が”すんなり”トップに就いた

まさに、この夏は風雲急を告げている

この夏が終わる前に”決着”をつけないと…

オレは大袈裟ながら、一命に懸けてもという気持ちで、この大きなヤマを踏破する覚悟に身を震わせている


...


数日後、オレは、局長と編集部の応接ソファで向かい会っていた

応接と言っても、田舎町の公民館あたりのロビーでよく見る、くたびれた感じのそれだ

局長の佐田さんが、たばこの煙を燻らしながら言った

「…しかし、追ちゃんも怪しい山と向き合ったもんだな。今更だが、やばいぞ、これ。下山する機会は今が最後だ、たぶんな…」

「行きますよ、オレは!てっぺんまで…。もう、頂上の情景は描けてるんだ。ここからは、その確認ってことです」

「簡単に言うなあ…。ちょうどこの時期だ。暴かれる側からすれば、なりふり構わずだろう。手加減なしだぞ、きっと。いいのか、ホントに?」

「ええ」

「わかった…。さっき言った条件だ、オレの立場ではな。その範囲、条件で動け。…でもよう、未成年、しかも女の子だからな…、”対象”は。かわいそうなトコには、追い込むなよ。これは仕事抜きだ。三人の子を持つ一人の親としての頼みだ」

「…わかってます、それは…」

条件付きで、相和会の取材続投許可がおりた

今回、このネタを追及するに際した条件は二つ

まず、今継続中の横浜児童虐待疑惑を連続掲載するに、支障が生じないこと

そして、相和会に関するスクープの紙面登場は、関連ネタを含め、例の女子高生から直に供述が取れ、裏付けがはっきりした段階とする

とにもかくにも、局長がここまで上の譲歩を得るのに、どれだけプレッシャーを受けたか…

そう思うにつけ、オレの決意は今、マックスを示していた

はっきりしているのは、これから様々な方面から圧力や妨害が入るということ

それにしばらくは、ほとんど眠る暇がないだろう


...


その日の午後、早速、この後を暗示するかのような一報が入った

建田組のチンピラらしき、20代前半の男が死体で発見されたということだった

名前は浅田勝…

一応、飛び降り自殺の可能性が高いとのことだ

いや、このタイミングでは相和会関連での”事件”に違いない

もしかすると、その先に見えてくるものは、相和会の知られざる背後の真実かも知れない…

それは、特段の根拠はない、いわば直感だった

とにもかくにも、オレは浅田という若い組員の周辺を追うことにした





< 174 / 221 >

この作品をシェア

pagetop