ヒートフルーツ【特別編集版第1部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪
その10


”うわ~、すごいや…”

ケイコはすでに、すっかり興奮しきっていた

それは圧巻だった

今、ケイコの前で展開されている光景…

さっきまで外で列を作っていた若い来場者たちが、ライブ会場までの通路を縦一列で行進しているのだ

今、目の前で…

大音響で流れるディスコ調の曲を全員が口ずさみながら、前の人間の両肩に手を乗せ、いわゆるジェンカのノリで…

曲に合わせ、両足を揃えたステップで前進するその一体感、躍動感…

そこから発する凄いエネルギーは、既にこのライブハウス全体を異様な空気で包み込んでいた

...



やがてその列は、ライブ会場の入り口に立っていたケイコの目の前を左折して、ジェンカのまま次々と吸い込まれるように入場していく

「おー、ケイコさーん!」

「わあー、タクロウさん、それにシンゴさん…!」

なんと連れの二人は、ジェンカの列にちゃっかり加わって、ぴょんぴょん跳ねながらケイコに手を振っているではないか…

「ハハハ…、今日はクローズイベントだから無礼講ですよ。ウチのもんも跳ねてますし。ほら、あそこ…」

隣りの浅田が列の中の黒服を指さした

「浅田さーん!」

「おー、タカシー、もっと高く跳ねろって!」

「こうですかー、それー!」

”やだ~、あの人、ムキになって…。跳ねてるってより、あれじゃあジャンプじゃん。ハハハ…”

「ギャハハハ…、タカシ、お前はカンガルーかよ…!」

隣りで浅田は腹を抱えて笑っていた


...


ジェンカの列は次々と会場内へ突入していった

その間、ケイコも体でリズムを取り、周りのスタッフらと曲に合わせて手拍子して、夢中で最後尾が会場に収まるまで見届けた

「お嬢さん…、じゃあ、中入りましょう。今日のイベントの余興はまだありますから…」

ケイコは浅田にエスコートされ、ライブ会場となるホールの中に足を踏み入れた

ライブステージのホールはかなり広く、最後方にバーカウンターもある

「ここはもともと繊維関係の工場だったんですよ…。だから天井が高くてね…」

浅田の説明に頷きながら、ケイコは周囲を見上げると、2階通路が三方に渡っており、そこからもステージが見渡せるスペースになっていた

”いわゆる2階席か…”

ケイコは目を細めて、心の中でそうひと呟きしていた

...


更にホール全体を見渡すと…

既に列から離れた100人を軽く超える観衆が、所々で塊をつくってワイワイと会話をしていた

会場内の熱気はムンムンで、すでにクローズライブを迎えるモードに達していた

”いやぁ…、この熱気はハンパじゃないや。どんなステージが見れるんだろうか…。なんか楽しみになってきたな…”

ケイコは剣崎から授かった建田への用件を済ませた安ど感からか、これから始まるライブイベントに胸を躍らせていた…




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