ヒートフルーツ【特別編集版第1部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪
その11
「お嬢さん、もうすぐ天井から風船が落ちてきますよ。入場者には、どれでも好きな風船をひとつ、受け取ってもらうことになっててね。中には今日だけの特製チケットの半券が入っているんです」
「半券ですか…?」
ケイコはややあっけにとられた表情で、浅田に無言で補足説明を求めた
そんな彼女の思いを察したのか、浅田はちょっと口元をゆるませてその先を説明した
「それ、入場の際こちらで回収した半券なんですが、それにロードローラーズのメンバーがサインしたんです。1枚に一人ですけどね」
「サイン…?じゃあ、自分の持っていたチケットとは違うものを受け取ることになるのか‥。でも、それに誰のサインかは、開けてのお楽しみってことですね?」
「そう。正確には風船割ってのお楽しみだけど。はは…。だからお目当てのメンバーのサインをゲットできるかどうか…、ゲーム感覚もあって、イベントライブならではの企画かなって。まあ、今日は常連さんが多いから、後でサインチケットの交換なんかは当然するんじゃないかな…」
”なんか、アットホームでいいなあ…、好きなバンドを通じてそういうのって。ちょっと、うらやましい気がするよ”
ケイコはそんなことを心の中で思い巡らせ、談笑している十代らしき少女たち数組を微笑ましそうな顔つきで眺めるのだった
...
「素敵な企画ですね。考えた人、誰ですか?」
「ハハハ…、俺だよ…。あのさ…、俺、建田の親分には極道の組長として着いて行ってるけど、金を稼げる実業家としても尊敬してるんだ。何と言っても、発想がすげえよ、あの人。…今日のアイデア、俺、一生懸命考えてさ…」
「浅田さん…、私は今、目にしていることで心を踊らせていますよ。こんな素敵な場面作ってくれて、お客さんも感謝してるんじゃないかな」
「ケイコさん…」
二人は、何ともいい笑顔で、互いの顔を見合っていた…
...
しばらくすると、”それ”は始まった…
天井から一斉に降ってきた色とりどりの風船は、ゆっくりとうす暗い会場内に散らばった
それを待ち受ける来場客は一様に天井を向いて、両手を上に差し出した恰好で、落ちてくる風船を追って動き回りだした
”わー!”
”キャー!”
”おー!”
皆、口を大きく開けて思い思いに歓声を上げながら…
それはなんとも和やかな空間だった
マッドハウスの従業員(建田組組員)も皆、笑顔で風船を待ち受け追いかける観客の姿を眺めている
ケイコも…
...
やがて、風船がそれぞれの手元に収まると、今度はあちこちで”バン!”バン!”と風船の割れる音が響いた
さらに、みんなの声がいたるところで飛び交っている
”わー!やったー、タクヤだー!”
”えー!うそー!”
”おー、赤子さんが当たったぞ!”
喜ぶ声、笑い声、驚く声…
それはいずれも心地よい響きには違いなかった
みんながここに通って、ステージに心を弾ませ、楽しんだ
この4年…
その最後のイベント・ライブ…
それぞれが感慨深い思いを抱いて、今日、ここに足を運んだことだろう
ケイコは思いもよらぬ異空間に身を置き、どこか夢心地だった
そして…、これから登場するバンドがどんな人たちなのか、どんな演奏をしてくれるのか…
”そこ”にも関心が行っていた
”まさか、やくざの親分がオーナーのライブハウスで、こんな光景を目にすることが出来るなんて…”
これは、彼女の素直で自然にこみ上げてくる思いであった
「お嬢さん、もうすぐ天井から風船が落ちてきますよ。入場者には、どれでも好きな風船をひとつ、受け取ってもらうことになっててね。中には今日だけの特製チケットの半券が入っているんです」
「半券ですか…?」
ケイコはややあっけにとられた表情で、浅田に無言で補足説明を求めた
そんな彼女の思いを察したのか、浅田はちょっと口元をゆるませてその先を説明した
「それ、入場の際こちらで回収した半券なんですが、それにロードローラーズのメンバーがサインしたんです。1枚に一人ですけどね」
「サイン…?じゃあ、自分の持っていたチケットとは違うものを受け取ることになるのか‥。でも、それに誰のサインかは、開けてのお楽しみってことですね?」
「そう。正確には風船割ってのお楽しみだけど。はは…。だからお目当てのメンバーのサインをゲットできるかどうか…、ゲーム感覚もあって、イベントライブならではの企画かなって。まあ、今日は常連さんが多いから、後でサインチケットの交換なんかは当然するんじゃないかな…」
”なんか、アットホームでいいなあ…、好きなバンドを通じてそういうのって。ちょっと、うらやましい気がするよ”
ケイコはそんなことを心の中で思い巡らせ、談笑している十代らしき少女たち数組を微笑ましそうな顔つきで眺めるのだった
...
「素敵な企画ですね。考えた人、誰ですか?」
「ハハハ…、俺だよ…。あのさ…、俺、建田の親分には極道の組長として着いて行ってるけど、金を稼げる実業家としても尊敬してるんだ。何と言っても、発想がすげえよ、あの人。…今日のアイデア、俺、一生懸命考えてさ…」
「浅田さん…、私は今、目にしていることで心を踊らせていますよ。こんな素敵な場面作ってくれて、お客さんも感謝してるんじゃないかな」
「ケイコさん…」
二人は、何ともいい笑顔で、互いの顔を見合っていた…
...
しばらくすると、”それ”は始まった…
天井から一斉に降ってきた色とりどりの風船は、ゆっくりとうす暗い会場内に散らばった
それを待ち受ける来場客は一様に天井を向いて、両手を上に差し出した恰好で、落ちてくる風船を追って動き回りだした
”わー!”
”キャー!”
”おー!”
皆、口を大きく開けて思い思いに歓声を上げながら…
それはなんとも和やかな空間だった
マッドハウスの従業員(建田組組員)も皆、笑顔で風船を待ち受け追いかける観客の姿を眺めている
ケイコも…
...
やがて、風船がそれぞれの手元に収まると、今度はあちこちで”バン!”バン!”と風船の割れる音が響いた
さらに、みんなの声がいたるところで飛び交っている
”わー!やったー、タクヤだー!”
”えー!うそー!”
”おー、赤子さんが当たったぞ!”
喜ぶ声、笑い声、驚く声…
それはいずれも心地よい響きには違いなかった
みんながここに通って、ステージに心を弾ませ、楽しんだ
この4年…
その最後のイベント・ライブ…
それぞれが感慨深い思いを抱いて、今日、ここに足を運んだことだろう
ケイコは思いもよらぬ異空間に身を置き、どこか夢心地だった
そして…、これから登場するバンドがどんな人たちなのか、どんな演奏をしてくれるのか…
”そこ”にも関心が行っていた
”まさか、やくざの親分がオーナーのライブハウスで、こんな光景を目にすることが出来るなんて…”
これは、彼女の素直で自然にこみ上げてくる思いであった