ヒートフルーツ【特別編集版第1部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪
その13


「…ナウ・ローラーズ…、ラスト・ローラーズ、アンド初代ローラーズの紅一点、天理赤子のジョイントでした~。…、ここで香月アキラと土橋タクヤが一旦抜け、2代目ローラーズの竹原マサトとチェンジします。アキラとタクヤに拍手~!!」

”うぉー!アキラー…”

”タクヤさ~ん…!!”

”マサトー!待ってました~”

もう、館内はそれぞれに発する声が重なり合い、騒然としていた…


...


「A子…、B子と私、行ってくるよ」

「うん、私の分も頼むね!」

「オッケ~」

”それ”は一斉だった

”みんな、どこ行くんだろ…”

アキラ達がステージを去った途端、ライブは引き続き、現ロードローラーズと入れ替わった初代メンバー・天理赤子&竹原マサトが加わった即製ユニットが、ハイテンポのビートナンバーを奏でていた

それは、まさにこれまでを上回るど迫力の轟音だった

その最中なのに…


...


ケイコは気が付くとホールの外に出ていった

彼女たちを追って…

”あの子たちを追っかければ、その先で会える…”

ケイコにはそんなカンが働いていたのだ

その時の横田競子が胸に決したこと…

それは”彼”に会うことのみだった…

”アキラさん…、私、今夜絶対、あなたに会う。あなたに会うから…!”

ライブホールからかけ出たケイコはそう、自らに絶叫していた

そして、ホールを出た少女たちのが行きついた場所…

”はあ~…、なんだよ、トイレか…”

ケイコは思わずため息をついて、トイレの前に立っていた…

...


”えっ…、でも、みんなトイレに入らないじゃん…”

周りには10代から20代前半くらいと思われる若い女性の来場客を中心に10数人が、廊下を挟んで男女別に仕切られたトイレの順番を待ってるような光景ではあったが…

よく見ると、ちょっと違っていた

皆サインペンやメモ帳と先ほどの半券、カメラなどを手にしているのだ

それは、ここを訪れる誰かを待っているといった様子が伺え、ケイコもピンときていた

”もしかしたら…!”

彼女はすかさず、3人組で雑談中の女性に声をかけてみた

...


「あのー、すいません。私、ココは初めてだったんですが、さっきのギター弾いていたアキラと呼ばれてた人、いっぺんで気に入っちゃったんです。だけど、もうすぐここ閉鎖と聞いて、できれば今日、直に握手とかしてもらいんですよね。そういう時、どうすればいいですかね?常連に方みたいだから、教えてくれませんか…」

「えー、そういことなの?アハハハ…」

「やだあ…、キャハハハ…」

3人は同時に笑い声をあげ、そのうち真ん中にいた子がケイコにやや早口で語りかけた

「アキラ、トイレ近いんだよね。インターバルは大抵トイレに入るのよ。でさ、ココにいればもうすぐ来るから。みんな、それ待ってるのよ」

「そうそう…、実質、今日が最後だしね。私たちは一緒に写真撮らせてもらうつもり」

「今日はクローズドのイベントだからさ、最後だと逃げられちゃうかもしれないんで、他のメンバーがステージやってる時狙ってね、出てきたのよ。まあ、みんな考えることはおんなじだったみたい…。はは…」

ケイコはすべてが呑み込めた…

...


「親切にありがとう。ああ…、ついでだから私も今のうちにトイレすませておこうかな。はは‥」

「なら、早く行ってきた方がいいわ。もう来ると思うから、アキラ」

ケイコは再度お礼を言った後、小走りして女子トイレに入ったが…

すぐに外近くまで戻り、隣の男子トイレをそっと覗きながら、更に耳を澄ませていた

”うん、ちょうど誰もいないみたいだ。…なら、隣で待ち伏せするか…”

そう決意したケイコは、外の少女たちの目がこっちに向いていない瞬間を見計らい、”今だ…!”と心で叫ぶと、男子トイレにさっと飛びこんだ

さすがに陸上部のケイコだけに、それは、瞬間移動に近い芸当であった(?)

おそらく、彼女のこの行動に気づいた者はいなかったであろう

...


ケイコは男子トイレに駆け込むと、即、一番手前の”個室”に入りカギをかけた

それは誠に素早く、音もたてずにまるで忍者のような身のこなしであった

”わー、生まれて初めての男便所入っちゃったよー。しかも大の方だし‥。どうしよう…”

ケイコは和式の大便器を細目で見下ろしながら、心の中でそう呟いていた…





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