ヒートフルーツ【特別編集版第1部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪
その14
ケイコはカギをかけたドアの隙間から外へ、じっと右目を凝らしていた
ちょうどここからだと、一番入口付近の小便器が正面から見えた
”どうか、誰も入らないうちにアキラが来ますように…”
少なくとも、物心ついてからは初めて足を踏み入れた男子トイレの個室内で、ケイコはひたすら耳をそば立てながら、外の様子の変化に注意を払った
今の状況を自覚すると、恥ずかしさやら何やらが頭の中でごっちゃになり、ケイコの心臓はドクンドクンと自分の両耳に伝わるほど高鳴っていた
”ふう~…、背筋や額からは冷や汗も滲んできちゃったよ。緊張するわ。
やっぱり…”
そして、そうこしていると…
女の子の甲高い声が一斉に行き交い、外が騒がしくなった
...
”来たー!!”
それは間違いなかった…
個室で待ちわびるケイコの耳には、外の女の子たちが口に出す”アキラ”の名がはっきりと、何度も飛び込んできたのだから
”たぶん、彼女たちはまずアキラさんをトイレに入れるだろう。用を足させて出てきた後、サインやら写真をねだるはずだ。なら、もう入ってくるって、あの人が。どうしよう…”
ケイコの胸の鼓動はさらに激しさを増し、体中がほてっていた
間もなく、間隔の短い靴音が近づいてきた…
そして、ドアの隙間からどっと見開いたケイコの瞳は、若い男の後ろ背をキャッチした
スマートなスタイル、さらっとした髪型、ステージで目にした衣装…
彼女はそれらをすべて一瞬で総合判断し、”彼”と断定した
と同時に、即アクションを決行する決断も済ませていたのだ
”何しろ、他に人が来る前に終えなきゃ。悪いけど、この人が用を足す前にだ!”
...
”バタン!”
ケイコは勢いよく個室の外に出ると、小便器に向かって手をズボンのチャックに当てていた彼の元に一直線だった
「わー、何…?キミ…!何で女の子が…」
「すいません、アキラさん。こっち入って!」
ケイコはアキラの言葉を小声で強引に遮りると同時、目にもとまらぬ速さで彼の左ひじを掴んと、そのまま先ほどの待機場所へと連れ込んだ
”カチャッ!”
施錠もアッという間に完了だった
...
「私、先週千葉の海で出会った競子です!…アキラさん、覚えてますよね!」
「えーっ!!あの時の…、ええと、車の荷台で一緒だった…?」
「そうです!横田競子です。今日、ここへは別の用で来て、たまたまライブ観てて、さっき演奏してるところ目にしてたらすぐわかったんです。もう、こんな再会があるんだなあって…。こうなったら絶対会って話ししなきゃって。今日は人もいっぱい来てるし、こんなとこで待ち伏せしなんかして、ごめんなさい。ぶしつけだけど、ライブ終わったら私、待ってますから…。外でお話したいんです!いいですか?」
ケイコはここでも小声の早口でまくし立てた
アキラは目をぱちくりさせながらも、ケイコの顔をじっと見つめて聞いている…
彼のその表情から、必死に”この状況”をかみ砕いているのは、ケイコにもしっかり伝わっていた
「…わかった。今日はバンドの先輩たちも来てるけど、終わったらすぐここを出るよ。入り口裏手にバイクが止まってるから、そのあたりで待ってて。たぶん、8時半過ぎになると思けど…」
「うん。待ってます。ありがとうございます!」
「いや‥、でも心臓が飛び出るほど驚いたわ。はは…」
その時、誰かが入ってきた
”シーッ”
個室の二人は、条件反射的に自分の口を右人さし指を立て、押しあてていた
正面を見あって…
それはどことなくおかしく、二人は笑いをこらえるのに必死だった
...
”チャポチャポチャポ…”
「ふ~、う~…」
おそらくは若い男性であっただろう‥
二人の潜んでいた個室正面から、小さい方の用を足している”その様”は、ケイコとアキラの両の耳に生々しく届いていた
そんな二人の脳裏には、目にしていないその情景があまりにもリアルかつ立体的に形を成していたのだろう…
室の中のケイコとアキラは、もはや笑い声を漏らさない我慢大会と化していた
さっきまで同じように人さし指を口元に添えていた二人は、もうそんなレベルで留まれず、ケイコは両耳を塞ぎながら膝をばたつかせ、アキラは右手で口を塞ぎ、左手では腹を押し込むように抑えていた
その顔は互いに真っ赤で、今まさに風船がはちきれる寸前の様相を呈していた…
ケイコはカギをかけたドアの隙間から外へ、じっと右目を凝らしていた
ちょうどここからだと、一番入口付近の小便器が正面から見えた
”どうか、誰も入らないうちにアキラが来ますように…”
少なくとも、物心ついてからは初めて足を踏み入れた男子トイレの個室内で、ケイコはひたすら耳をそば立てながら、外の様子の変化に注意を払った
今の状況を自覚すると、恥ずかしさやら何やらが頭の中でごっちゃになり、ケイコの心臓はドクンドクンと自分の両耳に伝わるほど高鳴っていた
”ふう~…、背筋や額からは冷や汗も滲んできちゃったよ。緊張するわ。
やっぱり…”
そして、そうこしていると…
女の子の甲高い声が一斉に行き交い、外が騒がしくなった
...
”来たー!!”
それは間違いなかった…
個室で待ちわびるケイコの耳には、外の女の子たちが口に出す”アキラ”の名がはっきりと、何度も飛び込んできたのだから
”たぶん、彼女たちはまずアキラさんをトイレに入れるだろう。用を足させて出てきた後、サインやら写真をねだるはずだ。なら、もう入ってくるって、あの人が。どうしよう…”
ケイコの胸の鼓動はさらに激しさを増し、体中がほてっていた
間もなく、間隔の短い靴音が近づいてきた…
そして、ドアの隙間からどっと見開いたケイコの瞳は、若い男の後ろ背をキャッチした
スマートなスタイル、さらっとした髪型、ステージで目にした衣装…
彼女はそれらをすべて一瞬で総合判断し、”彼”と断定した
と同時に、即アクションを決行する決断も済ませていたのだ
”何しろ、他に人が来る前に終えなきゃ。悪いけど、この人が用を足す前にだ!”
...
”バタン!”
ケイコは勢いよく個室の外に出ると、小便器に向かって手をズボンのチャックに当てていた彼の元に一直線だった
「わー、何…?キミ…!何で女の子が…」
「すいません、アキラさん。こっち入って!」
ケイコはアキラの言葉を小声で強引に遮りると同時、目にもとまらぬ速さで彼の左ひじを掴んと、そのまま先ほどの待機場所へと連れ込んだ
”カチャッ!”
施錠もアッという間に完了だった
...
「私、先週千葉の海で出会った競子です!…アキラさん、覚えてますよね!」
「えーっ!!あの時の…、ええと、車の荷台で一緒だった…?」
「そうです!横田競子です。今日、ここへは別の用で来て、たまたまライブ観てて、さっき演奏してるところ目にしてたらすぐわかったんです。もう、こんな再会があるんだなあって…。こうなったら絶対会って話ししなきゃって。今日は人もいっぱい来てるし、こんなとこで待ち伏せしなんかして、ごめんなさい。ぶしつけだけど、ライブ終わったら私、待ってますから…。外でお話したいんです!いいですか?」
ケイコはここでも小声の早口でまくし立てた
アキラは目をぱちくりさせながらも、ケイコの顔をじっと見つめて聞いている…
彼のその表情から、必死に”この状況”をかみ砕いているのは、ケイコにもしっかり伝わっていた
「…わかった。今日はバンドの先輩たちも来てるけど、終わったらすぐここを出るよ。入り口裏手にバイクが止まってるから、そのあたりで待ってて。たぶん、8時半過ぎになると思けど…」
「うん。待ってます。ありがとうございます!」
「いや‥、でも心臓が飛び出るほど驚いたわ。はは…」
その時、誰かが入ってきた
”シーッ”
個室の二人は、条件反射的に自分の口を右人さし指を立て、押しあてていた
正面を見あって…
それはどことなくおかしく、二人は笑いをこらえるのに必死だった
...
”チャポチャポチャポ…”
「ふ~、う~…」
おそらくは若い男性であっただろう‥
二人の潜んでいた個室正面から、小さい方の用を足している”その様”は、ケイコとアキラの両の耳に生々しく届いていた
そんな二人の脳裏には、目にしていないその情景があまりにもリアルかつ立体的に形を成していたのだろう…
室の中のケイコとアキラは、もはや笑い声を漏らさない我慢大会と化していた
さっきまで同じように人さし指を口元に添えていた二人は、もうそんなレベルで留まれず、ケイコは両耳を塞ぎながら膝をばたつかせ、アキラは右手で口を塞ぎ、左手では腹を押し込むように抑えていた
その顔は互いに真っ赤で、今まさに風船がはちきれる寸前の様相を呈していた…